文学

星野博美『銭湯の女神』『のりたまと煙突』

わずわらしさを厭わず様々な人や土地と付き合い、眺め、肌で感じたものを流さずに、時間をかけてつなぎとめる言葉。 行動にも思考にも、手間と時間を惜しまない自信に裏打ちされた、簡潔できっぱりとした文章。 同時代、それもほとんど同世代に、こんな書き…

山田太一『空也上人がいた』

優柔不断な性質に加えて、普段から世の中との関係や縛りが淡い、無責任で個人的な生き方を選んできたから、いつだってそうだと言えばそうなのだが、今のように世の中に中途半端な危機感があると特に、周囲を気にして軽薄に格好の良いことを言い過ぎているの…

色川武大『文体についてかどうか分からない』について

この文章は、ワタナbシンゴさんhttp://twitter.com/shanti_aghylとのツイッターでの会話と、荻原魚雷さんのブログの文章「文壇高円寺 - 文化の基盤」http://gyorai.blogspot.com/ に触発される形で、半ば返信として書きました。 お二人の力を借りて、もやも…

『戦中派動乱日記』

このところ、毎年夏の発売が恒例になっていた、20代の山田風太郎による戦中、戦後の日記。昨年出た『戦中派闇市日記』の帯でも予告されていたので心待ちにしていたが、今年は夏を過ぎてもいっこうに店頭に並ばずがっかりしていたところ、ようやく発売。 だん…

「福田恒存文芸論集」(講談社文芸文庫)を読んで以来、

もの凄く文章が書きにくい状態になってしまった。 http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20040512#p2 これに収録されているほとんどの文章は、10年くらい前に全集で読んだことのあるものなのだけれど、その時は、単純に自分が文意を普通に理解、消化できるレ…

しかし、これも先日出た講談社文芸文庫の「福田恒存文芸論集」

を読んでると、そうした「金回りが良くなってくると、問題の所在を見失うという、甚だ唯物史観的な事態」の問題点が戦後数年の時点でとことん突き詰められていて驚くやら、情けないやら... 本当に、つきつめる孤独を恐れない、強く清潔な「個」を持った人だ…

円還の閉じた世界に風穴を

さんざん引っ張ってきてしまいましたが、サイバラについて書くのはとりあえず止めておこうと思います。 「私は普通のいい子じゃないのよ」と上手に主張することによって意識的に別の層に媚びていい子になる、もっとシンプルに言うと、わかりやすい弱者になる…

河出ムック 武田百合子 面白い。

読み終えてしまうのを惜しむように、少しずつ、ゆっくりじっくり読んでます。 百合子さんの書く文章は、あれこれ批評を加えたり、感想を言ったりするのが野暮で、ただただ面白がり、感心し、楽しく意表を突かれたい、誰かとそれを分かち合うにしても、「ほら…

河出ムック 武田百合子

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4309976727/qid=1077822242/sr=1-16/ref=sr_1_2_16/250-8785409-9105022 未発表の写真も満載で、本屋で見つけた途端飛び上がってしまった。 しかし、最近の百合子さん人気に決定的に欠けてるのは... あんまりこん…

ここ数日、インフルエンザで寝込んでた時間を利用して

遅れ馳せながら、矢作俊彦の『ららら科学の子』と、近刊のヘミングウェイの足跡を辿るエッセイを読んでいるんだけど、なんだかベタベタに正直になっちゃってるなあ。 朝日の書評で亀和田武は「反省しない」この世代の根性を称えていたけれど、どっちかってい…

昨夜は荻原魚雷さんと今年最初の会食。

魚雷さんは今、書評のメルマガhttp://www.aguni.com/hon/review/に彼の最も敬愛する作家の一人である古山高麗雄さんの全著作レビューを連載中なのだけれど、その話から、古山さんと『戦艦大和の最期』の吉田満さんの文学的交流の話になった。 戦時中、海軍士…

最後に気になった点。

しかしながら、こうした四方田氏にして尚、「思想」や「文学」が絶対的なものとしての意味と威厳を残していて、それに携わる者が「選ばれた者」「前衛」としての矜持を持っていた時代とその終わりを体感した自身の体験を「絶対視」しすぎているように俺には…

「本当のこと」が無くなったということは、つまり神であれ思想であれ「自分」より大きなものを信じ、畏れる気持ちが無くなった、ということだろう。

人間、誰しもある年になれば、どうしても守らなければならない秘密というのはあるわけで、「本当のことはもうない」という言い方自体が、僕は文学的なレトリックだと思います。 日本のフラットな中産階級の中では一時的に見えなくなったと言えるかもしれませ…

新潮2月号 四方田犬彦、坪内祐三の対談『1968と1972』を読む

90年代前半、四方田氏の「SPA!」の連載や「ガロ」の日記を愛読していて、知的好奇心の窓口としてかなり影響を受けていたが、今回も好奇心を刺激される雑誌的煽りセンス満載の内容。 68年当時、現代詩が若者にとって最も切実な文学だったことは、我々世代の多…

と、結局また色川武大の話になってしまったが

自分の感じ方に確信が持てず、頑固な開き直りを持てない。 かといって、その場その時の空気に適応、同調することも、面の皮の厚さが足りないのか、甘い意地やヒロイズムを思い切れず、はしたなく思えて躊躇してしまう。 そうして格好のつかないまま時が過ぎ…

『en-taxi』最新号のショーケンLIVEレビューに、

亀和田武は「68年の革命世代の、自分のしたことをいっさい後悔しない、反省なんて言葉は辞書からいっさい破り捨てた。勝ったの負けたのなんて、そんな野暮なことはいいっこなしだぜ、というテイストがカッコイイ」というような内容の一文を寄せていた。 最近…

あと、色さんのこの発言も印象的だった。

しかし、昔の人は一体に文章がうまいですね。電話ができてからだめになったんでしょう。無駄がないですからね。ほかの人が真似しても、百けん風じゃないから、にせものになっちゃう。文章力とは別に、実感に根ざしてる文章なんで。だから、さっき川村さんが…

河出ムック『内田百けん』を読む。

今年の河出ムックは、装丁も執筆陣もツボを押さえまくった山口瞳特集や(今出てる号からQJ編集長になった森山さんの名前の誤植は可哀そうだったけど...)、単行本未収録原稿300枚収録!、伊集院vs村松対談もスイングしてる色川武大vs阿佐田哲也特集など、…

荻原魚雷さんに、福田恒存と平野謙による坂口安吾追悼文掲載の『知性』をいただく。

特に、福田恒存の、敢えて自分を思い切り幼く無防備な状態に置いて書いたような追悼文が素晴らしかった。 もともと坂口さんは人間のすなおなやさしさといったものを求めた人であるし、またそういうものを皆がじかに出しあって、傷つかずに生きていくことを夢…

昨夜も、「ガキ帝国ナイト」のフライヤーを置きに新宿、渋谷方面に。

移動中にパラパラと再読していた武田泰淳『目まいのする散歩』の中で、いま現在自分を取り巻く気分と風景を、一気に顕在化させるような一説に、不意打ちのようにぶつかる。 今日は、そのフレーズを覚え書きとして抜粋。 明治神宮の表参道は、今や、日本のシ…

と、思わずリキんでしまったけれども、

一方でこういう憧れもある。ちょっと引用長くなるんだが… 「たべものの恨みは恐ろしいぞお」と、女房は、誰かをおどかすようにいう。戦後、闇のお菓子を、闇市の屋台で売りさばいていたころ、取り締まりの警官にしばしば襲われた。菓子の中身をわって、小豆…

平成の梅崎春生(だと、かねてより確信する)、荻原魚雷さん初の著作集『借家と古本』が出ました。

http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/5180/旧線引き屋HPに掲載された「文壇高円寺」と、『sumus』連載の作家論風エッセイを纏められたものです。 尾崎一雄、古山高麗雄、鮎川信夫、辻潤など、彼が深く愛し、また体質的にも響きあうところの多い作家達…

文壇高円寺、荻原魚雷氏が知らせてくれたおかげで、ヤフオクにて色川武大『御家庭映画館』をゲット! これでようやく色川名義の著作はコンプリートした。

「近頃でもヒューマンな感情を売り物にする映画はある。それがあまり泣けないのは、ひとつには、登場人物が愚かしくなくなって、生きるための一通りの知識や概念を身につけてしまっているからではないのか。世間一般のレベルがそこまであがってきているので…

ここにきて夏らしい(!?)日差しの快晴が続いているので、

昨日は中野方面を散歩。 ブロードウェイをひとめぐりした後、東急ストア一階に出来たあおい書店へ。フロア面積にものを言わせ、雑誌のBNなども充実していて楽しい。あっという間に時間が経つ。「考える人」の坪内祐三氏の連載、ずっと読みたかった田中小実昌…

ちくま文庫から『色川武大 阿佐田哲也エッセイズ』が刊行中。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480038566/ref=sr_aps_b_/249-5489367-1415555#product-details 坪内祐三、福田和也、リリーフランキーらによる新文芸誌『en-taxi』2号でも http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4594603327/qid=1058979900…