紡木たく『瞬きもせず』を再読し始めた

紡木たく『瞬きもせず』を再読しはじめた。自分にとって最も大切なマンガの一つだけれど、滅多に読み返さない。人間、自分の気持ちにピュアになり過ぎると身動きできなくなってしまうように。彼女の作品はとても柔らかく優しいのに、繊細で凛としたものが隅々まで張り詰めていて、読むには覚悟と緊張を伴う。襟を正したい気持ちになる。
生きている瞬間瞬間への愛しさが輝くように作品全体に満ちているけれど、それは感じやすいゆえの彼女の心細さや頼りなさに由来するものでもある。でも、彼女は僕等のように、人間をシニカルに突き放したり、物事を手早く相対化することができない。彼女はひたすら人と人生を信じ受け入れようとする。その為に屈託したり淋しく孤独を囲ったりするが、それでも偏狭にも他罰的にもならず、ひたすら耐えてしまう。本当に頑ななまでに。
普段、自他のエゴを自覚できない人間への軽蔑や嫌悪ばかり語りがちな自分だが、古風な日本人の美点の塊のような彼女には、どうにも頭を垂れてしまう。こういう人を否定してはならないという気持ちになる。信じたくなる。
こうした生き方を通して、人や世界への愛と信頼を失わないでいる彼女を信じ愛していることで、僕もまた支えられている。

 

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紡木たく『マイガーデナー』

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