25年目のホットロード(或いは、ガキ帝国・悪たれ戦争)

関西での取材の帰りに、岡山の実家に足を伸ばし、旧友達に近年の地方での暮らしぶりを色々聞いてきた。


中でも特に興味深かったのは、中学卒業以来、約25年ぶりに再会した元ヤンの話。
当時はお互いまだ未分化の動物みたいな状態だし(ネズミとライオンくらいの差はあったけど…)、自分を客観的に内省しながらお互いを語るなんてことができるはずもなく、だからこんなにちゃんと真面目な話をしたのは、今回が初めてだ。


彼は、「ホットロード」(僕らが学生の頃、80年代中盤から末にかけて爆発的に人気があった、暴走族が主人公の少女マンガ)のハルヤマを思わせる、ちょっと孤独で根が繊細ゆえに、気性が激しく暴走し始めると手がつけられない恐ろしい男で、ずっと自分は消息を知らず、おそらくヤクザにでもなるか、それでも長生きできずに死んじゃってるんじゃないかくらいに思っていたのだが、これが意外と言えば意外、納得と言えば納得な生き延び方をしていた。


彼には、主に中学卒業後何やってたかって話を中心に(これが、ガキ帝国を数倍強烈にしたような喧嘩と抗争の呆れるばかりの連続で、滅茶苦茶面白かった。この話は、今度『映画時代』を辞めて新たに創刊する新雑誌『MeWe』に掲載することにしました。)いろいろと興味深い話を聞けたんだけど、中でも印象的だったのが、彼があのアキバの事件の犯人に対して、凄く優しい(同情、共感というのとはちょっと違う)視線を向けていたことだった。
あの事件について、いろんな人と話した中で、おそらく彼が、いちばん優しいことを言ったという印象を(言外に伝わるものも含めて)自分は持った(中学時代の彼は当然よくモテたし、むしろあの犯人に恨まれて刺されるタイプの筆頭のようなヤツだったのだけど)。


地元に帰って、いろいろ見聞きしていて再確認したのだけれど、昨今見直される機運も大きい地方の共同体というのは、今も昔も、他人の噂話など大好きなわりに、一端不幸になった人間にとことん冷たかったりする。不幸になった人間も、自尊心とそんな彼らへの諦めゆえに、誰にも助けを求められない。
地方の地盤沈下の影響もあって、引きこもりのようになっている知人の異常な多さに驚いたのだけれど、積極的に彼らに声をかけようとするような人間は誰もいない。
近くに居て、直接、間接に利害関係があったり、お互いのそれまでの立場をよく知っているが故に助け合えない人間関係って言うのは、確実にあるなとあらためて感じた。


取りあえずこぼれ落ちずにいる間は、青年団だの消防だの、婦人会だの、群れ集まって相互扶助も成立してるんだけど、一端浮き上がり、こぼれ落ちるととことん孤独になる。
集団の中にいる間は、そのことに慣れ平気でいようとするし、こぼれ落ちたらその時点で自分を閉ざしてしまう。
(そしてこういう仕組みで、自分が含まれる世間について、うまく行っているところだけを見たがる人の結論と、うまくいっていないところに足をとられている人の認識に、とんでもない解離ができてるんだなって現実を痛感)


どんな世間でも、数が多くて幅を利かせているヤツというのは得てして、空気読みながら強きに付いて弱きを挫く、厚顔に小ずるく立ち回るヤツでありがちだから(これは、都市部も田舎も関係ない)、その単純な事実に振り回されて自爆しないだけの自立と、損得抜きの信頼関係を独力で築き、そのかけがえのなさを身に沁みるには、長い時間と心身の痛手、それに幸運が必要なんだなとあらためて感じた。


そうしたループに対して、ちゃんと距離を取って直視できるのは、結局一度本当に孤独を経験していて、かつ折れずに戻って来れたヤツだけなんだってことを、再確認させられた(そして自分など、幸運にしてそういうものから距離を置く猶予が与えられていたから、そういう態度が表面的にだけでも取れたってだけだなと…)。


生き延びたハルヤマのインタビュー、乞うご期待!

ホットロード 完全版 1 (集英社ガールズコミックス)

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