07年 私的ベストテン

旧線引き屋の友人骸吉君http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20071231、奈落君http://mixi.jp/view_diary.pl?id=669405562&owner_id=155702とやってる、歳末恒例の私的ベストテン。


では皆様、良いお年を。


1.『女渡世人 おたの申します』 71年 監督山下耕作 脚本笠原和夫
詳しくはこちらを。
http://intro.ne.jp/contents/2007/12/20_1953.html
「考えれば考えるほど殺人にしか到達しない思考が、人間の顔をもっとも美しく知的にするということは、おどろくべきことである。
一方、考えれば考えるほど「人間性と生命の尊厳」にしか到達しない思考が、人間の顔をもっとも醜く愚かにするということは、さらに驚くべきことである」(三島由紀夫『我慢としがらみ』)
「しかし、あのストイシズムは負の美しさです。社会全体がエネルギーを持ち返して来たら見捨てられるでしょう。
僕の場合だって、日常人ですからね。平凡になる時は、陽に出る。プラスにいたんではとてもヤクザ映画なんて書けませんよ。自分を追い込んで行かないと、出来るもんじゃない。
負につぎ込むエネルギーとは何か、という問題ですね。負であるだけに、何を書くのかという自分との対決です。」(『映画評論』 72年9月号 笠原和夫インタビューより)
大状況が緩やかに沈没に向う現在、弛緩した個人主義が「ほどほどに被害者である自分」「ほどほどに手の汚れていない自分」「ほどほどに正しい自分」の利己的で内向きな主張に閉塞していく中、心ある表現者には「自分を支える日常の再発見」を打ち出す人が多い。ただ、彼らが意識、無意識に見落とし忘れているのは、生きることは根本の所で避けがたく闘争であり、他者との関係には必ず「暴力」と「権力」が介在するということ。僕達はそれを日々割り切りながら行使し、露骨な形にならないよう洗練させることで日常を繋いでいる。
そのこと自体は肯定されなければならない。ただ、それが暴力であり、確実に自他の何かを切り捨てていることを忘れてはならない。
本日、浅草名画座最終日。
急げ!


2.『ロッキー ザ ファイナル』
詳しくはこちらを。
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20071211#p1
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20070420#p1
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20070515#p1
言葉ヅラだけを捕まえれば、アメリカ流の自己啓発メッセージに聞こえて鼻白むだろうロッキーのセリフも、最後までワガママで俗っぽくうだつの上がらないポーリーの変わらなさかげんと、彼とロッキーの腐れ縁を見れば、このシリーズの魅力の核が何であるかが理解できるはず。
ニューシネマでありながら、同時に超ニューシネマでもあった(アンチニューシネマではない!)、ロッキーの最終作に相応しい幕切れだった。


3.『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』 若松孝二
来年3月公開予定。
詳しくはこちらを。
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20071021#p1
理想、理念にすべてを賭けようとした活動家たちを、シンパシーを込めて描きながら、自分の弱さを克服しようとした結果の陰惨な総括(同志殺し)を、逃げることなく正面から描ききった若松孝二と、若き無名の演者たちの気迫に圧倒された。
ただ、組織(人間関係)が不可避的にはらむ権力の問題の解決を、個人の勇気にだけ求めることには40年一日の限界が。
長谷川和彦が、もしこの傑作を超えて連赤を描こうとするなら、今こそ「権力」「暴力」「統治」の問題に向き合いつつ、森恒夫永田洋子ら加害者の悲劇にこそ焦点を絞るしかない。


4.『解ってたまるか!』
68年、金嬉老事件の直後に書かれた福田恒存の戯曲の、劇団四季による再演。
あの「四季」が、現在敢えてこれを再演する、アクチュアルな勘の冴えにちょっと吃驚。
この芝居、下北あたりで上演され、切実に自意識の空転に苛立ち、突き抜けたもの、尖ったものを求めている「まっさらな」若者にこそ観られるべきだった。
実録・連合赤軍』に、いや、戦後から現在に至る、あらゆる若者文化に欠けている「勇気」が、ここにはある。
ここまで読んで興味を持たれた方は、是非戯曲に当たってみてください。
何かを本当に突き詰めるって、こういうことです。


5.『清らかな厭世 言葉をなくした日本人へ』 阿久悠
  『マイ ガーデナー』 紡木たく
詳しくはこちらを。
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20071112#p1
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20071211#p1
本そのものの感想とはちょっとずれるけれど、この2冊や、暮れにヒストリーチャンネルで放映された寺田ヒロオのドキュメンタリーを見ていて、現在日本人に欠けているのは、個人倫理や美観を体現する生き方の形と、それを支える頑固さだということを痛感。
ただ、これを守ろうと頑張れば頑張るほど、現実一般、時代一般との距離が開きがちなり、接点が失われる。直に付き合い肌で感じる一人ひとりへの親愛が失われると、俯瞰で観た一般に対する嫌悪と厭世だけが残ってしまう。
どちらかに傾斜しきらず、揺れや葛藤を抱え続ける体力を維持することが、今後自分の最大の課題になるなとも痛感。本当に難しいことだけれど。
あと、『マイガーデナー』ではじめて紡木たくに触れた方には、是非中期の代表作『瞬きもせず』を読んでみてください。後期作品に無い、平熱で「陽の」日常や青春のきらめきがフリーズドライされている、彼女のもう一方の魅力を知ってもらえるはず。『天然コケッコー』が描けなかった(映画は本当に最悪だったなあ...)、地方の本当の若者がここにはいます。
そして20年後の現在、彼らがどういう環境でどう生きているかに、東京の人たちにも思いをはせて欲しい。
手前勝手なファンタジーの道具として便利に消費するだけでなく。


7.『大都会 闘いの日々』
  『大激闘 マッドポリス80』
男性文化の暴力と含羞に飢える日々、個人的に大きな慰安になったCS再放送2本。
内容は後日、ゆっくり紹介しますが、それはさておき、こちらのhttp://intro.ne.jp/contents/2007/07/18_2010.html佐藤洋笑さんによるサントラレビューは圧巻!


9.NHK土曜ドラマ『ハゲタカ』
  『闇金 ウシジマくん』真鍋 昌平
  『石の肺』佐伯一麦 
生々しすぎてなかなか触れることがリスキーな現在の問題に、勇気を持って正面戦を挑んでいる2作。
『ハゲタカ』についてはこちらを。
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20070317#p1
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20070326#p1
『ウシジマくん』、前章フリーター編のラスト以来、特におとなしく実直なサラリーマンが、ただ当たり前に生きている結果抱え込んでいる孤独と貧しさのディティールを、淡々と執拗に描く現在連載中の章では、下流社会ファスト風土社会の表面的な現象の醜さと哀れを露悪的に暴くことを超えて、人のつながりと生活を破壊しているものの構造とディティールそのものを、怒りをもって描き出しつつ、我々一人ひとりが「どう生きることが良いことなのか」を、地に足つけた視線で問う覚悟が感じられる。
本当、「丸山真男をひっ叩きたい」とかなんとか、自身の正当化のリクツを押し付けあってる場合じゃないんだよ!
『石の肺』は、建築現場で働きながら私小説を書き続けた作家が、自身やかつての同僚を苦しめ続けるアスベスト禍の現状を、当事者の声とマクロな背景の両面から、淡々と平易に描き纏めたノンフィクション。
作家的自意識を抑えた書きぶりに、物書きとしての強さと誠実、そして本当の意味での繊細さを感じ、打たれました。

石の肺 アスベスト禍を追う

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