『最強伝説黒沢』『嫌われ松子』そして『女渡世人』(或いは『マイガーデナー』と『闇金ウシジマくん』


ふぬけ共和国さんの『最強伝説黒沢』評


http://funuke01.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/2007_99ff.html
http://funuke01.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_3c01.html

要するに、人間努力が大切だというけど、決定的に、最後まで報われない努力というのは本当に尊いのか?  という命題があった。



たとえば、ドラマ「大草原の小さな家」ではあらゆる不幸が起こる。ときには人生において不条理としかいいようのない不幸も起こるのだが、45分間(前・後編に分かれている場合は90分間)で、登場人物たちの心理的決着はついてしまう。
それは、彼らが敬虔なクリスチャンだからである。
すべて、「神が見ているから」ということであらゆる理不尽に納得する(まあ、「納得でもしないとやっていけない」のではあるが)。


日本人には唯一神はいない。まあ「神は死んだ」とか言われた頃以降の欧米人もそうなのだろうが、よほどシビアに「近代人」像を貫こうと思っている人を除いて、欧米人はまるで「禁煙した人が、我慢できなくなったときに吸うために残してある一本のタバコ」のように、「唯一神」という切り札を隠し持っている気がする。
日本人にとってそれに変わるのは、普通に考えて家族を最小単位とする「共同体」であるわけだが、
ではそれすらも無くなったとき、その人間の価値を決定するのは何なのか?
という問題が、映画「嫌われ松子」とマンガ「最強伝説黒沢」の最終回には、あったような気がするのである。

これは、最近自分が書いた、『女渡世人 おたの申します』や紡木たく『マイガーデナー』のレビュー
http://intro.ne.jp/contents/2007/12/20_1953.html
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20071211#p1
の問題意識とそのまま重なり、しかもその要点が端的に纏められていて凄くわかりやすい。
僕のレビューに引っかかりを持っていただけた方は、是非こちらも読んでみていただければと思います。


また、僕は『マイガーデナー』を、例えば『闇金ウシジマくん』と並べて読まれて欲しいと思う。
闇金ウシジマくん』の現在連載中の章では、市場原理主義による共同体の崩壊と格差社会の元での、ごく普通のサラリーマン家庭の孤独と(精神的な)貧困がディティール豊かに描写されていますが、紡木たくが『マイガーデナー』などで描き続けている人々は、実は『ウシジマくん』に登場する人たちより、おそらくさらに経済的に下層に位置する人たちです。
にも拘らず、この両者の与える印象の違いは何なのか。
『マイガーデナー』の人々を支えているものが、信仰と家族であると言う事実を、日本の自称リベラリストたちは重く受け止めるべきだと思います。


しかし、信仰を持たず、恒常的な信頼を担保できる共同体を失った我々はどうすればいいのか?
残念ながら、この問いに決定的な答えはないと思う。
共同体の残滓と、自由だけど流動的で不安定な人間関係の中で重ねる経験の間を行き来しながら日常を仮組みし、支えていくしかない。
例えば、最近ニューヨークに移住した友人と、格差社会における持たざる者の相互扶助の重要さと、ボランティアの根付き方の日米の圧倒的な違いについて話していて、「日本では、地縁血縁や同郷出身であれば扶助するが、まったくの赤の他人に手を差し伸べるのは何やらむしろ失礼、というような考え方があるような気がする。地域共同体がすでに解体している状態でこれではますますヤバい」「なんとなく孤立している人たちの方にも、「自分の方から物欲しそうに他者にアピールするのははしたない」って感覚が、歴史的な美観として根付いてたりするから難しい」といった話になったのだけれど、僕たちはこぼれ落ちないよう日々努力しながら、同時に切り捨てているものや、こぼれ落ちるもの、つまりこうした生き方の限界を意識するよう同時に努力するしかない。


また、これは単にはっきりと孤立した人間に限った話だけじゃなく、人間の尊厳、誇りや倫理をどう求めるかという話だから、本質的には、単に社会や制度が整備すれば解決するという問題じゃない。
どんなに物質的、社会的に満たされて見えても、プライドや充実を求める渇望に限りや答えはない(バブル期の若者が「本当の自分」探しに彷徨い、細かな差異の発見に夢中になり、時にオウムのような信仰を求めたように)。
そうした人間の本質的な「飢え」にどう応えるか、それをいかに共有可能なものとして提出し、解放するか。
『女渡世人 おたの申します』は、そこに真摯に向き合い、一つの回答たりえていると思います。
「黒沢」や「嫌われ松子」に針が触れた若い方も、是非ご覧になってみてください。
http://www.e-asakusa.net/meigaza/