アピールを急がない静かな地声

このところ、7、80年代頃の古い文芸誌に載っている作家のエッセイを、暇暇に拾い読みしている。物語や起伏の無い身辺雑記や随想風のものが多く、当時作家達の年齢が全体に高齢だったこともあって、戦後間もない頃に比べて今の文学は、どうしてこう退屈なのだろうと、若い頃は思っていた。
しかし今は、強く読者にアピールしようとしない、ゆっくりとした静かな文章にほっとする。加工し過ぎない人の内心や生活に触れている気がして落ちつく。そして、そういうものは、もう現実からは消えて、昔の活字の中にしか存在しなくなった気がしている。