町田康「深沢七郎『笛吹川』(講談社文芸文庫)解説」より

「どうしようもないとき、どうなるか。という前に、どうしようもないこととはなにか、それは、じりじりするような出郷の感覚であり、出水であり、死であり、時間の流れである。そしてそれらは、本来、言葉と無関係、無言である。しかし、私たちは言葉を発し、文章を紡ぎ、例えば死に言葉を与えてきた。それを無言の闇に押し返す。それも言葉で押し返す。(…)
そして、その圧倒的で、どうしようもない事態は、始まりと終わりを持たず循環する。六尺も厚く土を流した水が、また土を齋すように。おそろしいことである」
町田康深沢七郎笛吹川』(講談社文芸文庫)解説」

彼の言葉のよい読者では無いけれど、これは本当に明晰な名解説だと、読む度に降参する。