尾崎豊インタビュー1986春「俺は「カリスマ」よりも「スケベ」を信じる」(週刊プレイボーイ86年1月28日号)

ー正月は元旦からコンサートだったという話ですが。

尾崎「ツアーの最中ですから。結局、去年は4日にいっぺんの割合でコンサートをやってたっていう本数なんですよね」

ープロレスみたいだね。

尾崎「(笑)そうですね。仕事らしい仕事をしてるって実感みたいなのはありますね」

ープロ意識みたいなのは芽生えた?

尾崎「どうなのかな、プロ意識。僕はそれはそんなに強くないかもしれません。おととし、骨折してたから去年はプロらしい1年を過ごせたなという実感はありますけど」

ーあのね、尾崎さんっていうと割とありがちな「少年」っていう斬り口があるでしょ。だけど実際は年に90本近いライブをちゃんとこなす「仕事」をやってる。少年呼ばわりされることはないと思うんだけど。いろんな雑誌で見るとインタビューってたいていそうでしょ。

尾崎「(笑)そうですね。それは鋭い!いわゆる固定概念みたいなものがあって、そういうもののなかで話を進めて行きたいっていうのが、インタビュアーのほうにあってね。それにこっちが逆に合わせてかなきゃいけないっていう。そうなってくと逆にしゃべりたくなくなっちゃうっていうのがありますね」

ーファンの尾崎豊像っていうのはどうですか?

尾崎「そうですね。聴いてる人のなかに植えつけられていった虚像ってのは結構大きかったと思うんですけど、それほどその虚像が、僕がやりたいことに逸れていく虚像じゃなかったような気がします。それほどミーハー志向的な虚像じゃないし。まぁ、ちょっとキケンなのはね、宗教的なニュアンスみたいなね、ぜんぜん知らない人が聞くと宗教的なニュアンスがあるんじゃないかって誤解されそうなところがちょっとキケンだなって思うけど」

ーカリスマとか。

尾崎「カリスマとか。でも、まぁ反論があって本物だと思うし、本物って自分でそんな言い方しちゃおかしいけれど、反論があって当然だと思うしね、何かを本当にやろうとすると」

ー反論みたいなリアクションってありました?何となく逆に何やってもホメられちゃってそれでかえって辛いんじゃないかって感じに見えますけど。面と向って反論なんか本当にされたりしたの?

尾崎「うーん、そうだな一番最初にそういうこと言われたのがインタビュアーの人だったんです。それがものすごくつまんなかったのが、、自分より年齢したのディーンエイジャーの子にね、そうやって説教するような歌を歌うのはわたしはイヤだっていう風に、まぁ、ちなみに女なんですけどね(笑)。そういうすごくつまんないことを言う人がいたんでね。
あと自分が愛について語るっていうことに対して、愛とか自由の押し売りだっていうようなね、そういうこととか。それから、いわゆるカリスマ的になっていくヤツは信じられないという風に」

ーそれぞれどういう答を用意しますか?

尾崎「カリスマ的になっていくって見られ方をするっていうのは、つまりメジャーになっていくという過程のなかで起こるものだと思うんですけどね。でも、まぁ、いいんじゃないって感じですね。いろんな考えの人がいるし、僕だけが一番正しいって考え方したくないですから、何かに反発したりとか、それを否定するっていう気持ちっていうのは、すごくつまらないことなんだと思うんですよね。つまり自分自身がそれを受け止めるだけの度量がないっていうことだと思うんですよ。自分自身のなかにもそれを感じるから、そういう風な言葉に対して自分はそう思うんですけどね」

ー何か怒んないんだね。ふざけんなよって思う連中とか、いません?

尾崎「そうですね、敢えているって言い方しちゃえば、チャラチャラしてるヤツですね」

ーそれは女に対して?男?WPBだから同世代が読むと思うんだけど。

尾崎「やっぱり男のほうが目につきますね。だから、プレイボーイとかを読む人間っていうのは同じファッションとか流行を追いかけてしまう人間でもね、ポパイも読んでるけどプレイボーイも読んでるっていう人はね、僕はとても許せる部分があるんだよね(笑)。そういうことができる若者っていうのはいいと思うんだけど、そうじゃなくて何でもかんでもカッコ良くブランド志向で、っていうか志向も自分の生き方も全部ブランド志向でみたいな。そういう風な感覚でモノをとらえようとしてるヤツらっていうねは何かイヤですよね」

ー新人類っていわれる人たちってどうですか?

尾崎「ニューウェーブですね。うーん、僕は本当はこんなインタビューしたことないんだけど、こいつらはほんとにセックスすんのかな!みたいなね(笑)、おまえらセックスするときどうすんのみたいな感じがするときありますよね。セックスするときもカッコつけてんだろ。ピコピコやってんじゃないの!?っていう感じになっちゃいますね。ハードにやったら!っていうね」

ー尾崎さんってあれでしょ。ヌードのある雑誌って信頼してるでしょ。

尾崎「(笑)そうですね。そういうとこありますね」

WPBなんかまったくそういうノリの雑誌なんだけどさ。何か尾崎さんぐらいの年代の男の子ってそういう野蛮なのって分が悪くない?

尾崎「そうなんですよ。僕ね、同世代の人間に対して思うのはね、結構何パターンかの型があるんですよね。5パターンか、7パターンぐらいあって、そのなかで自分はどれで生きようかって選択してそのなかで生きてく人間が多いと思うんです。そうじゃなくて、いわゆるナンパするんでも何でもとりあえず自分で開拓する気持ちがない。知識があって本なんかでそうかナンパってこうやるのかって覚えたら、もう何でもとにかくヤリまくって、ヤリまくって、もう何でもヤリまくってやるぞっていう開拓精神がないっていうかね。ガッツがない(笑)って気がしますね。何か今日おかしいですね(笑)」

ー尾崎さん歌やんないでさ、フツーでいたらどんな感じだったと思います?(笑)。

尾崎「どうなってたかわからないけど、こういう仕事やって自信がついたみたいなところあるんですよ。それまでの自分っていうのは内向的な人間だったし」

ー尾崎さんてある時期までは自分と周囲の状況っていうのがどうもピントが合わないと。そんで一回線ひいちゃって、こっちからこっちはもう絶対負けたくない、もう絶対って決めたっていう風な。

尾崎「そうですね!何だか知んないけども、それはもう生活状況以外の何物でもないんだけど、ビンボーだったからさーみたいな気持ちが強くて、それ小さい頃からあってね、うち都営住宅だったんだけど近くにすごい大きな住宅がいっぱい建ってるわけ。別に今考えると大した仕事ついてる人じゃないんだけど、ともかく建って、うちの親父っていうのが戦後をちゃんと味わってクギ一本拾って歩きましたっていう。そういう話って聞いててね。あー、うちってビンボーなんだなーっと思ったわけで。まわりにそういう家が親がしっかりしてて建つでしょ。でね、お菓子買うのにオレは10円のものしか買えないんだけどあいつら100円のものを買うっていう疎外感っていうか差別感っていうか(笑)、仮面ライダーのスナックとかでもみんなはお菓子は捨てちゃうわけよカードだけ取って。だけど僕はほんとにお金がなかったからね。それ拾って食べたっていうぐらい」

ー恥ずかしさより、やっぱり食い気…?

尾崎「友だちが見てておっととかってギョッとしてる姿って幼心にも覚えてんだけど、オレ腹へってるからしょうがないんだよって言って、ビンボーであることをタテに、生きてくために。オレ傷ついてんだからしょうがないだろうって部分が裏を返せばあるのかもしれないね。そういったのが結構あって、それでもずっと同じ小学校行ってればきっと変わんなかったような気がするんだけど、転校してね、何かイジメられっ子になっちゃったわけ、僕が。で、登校拒否になって、で、そのときたまたまギターを手にして、歌いはじめて。で、ギターを手にして中学1年では何とかコードを押さえて全部歌えるようになった。譜面さえっていうか、コード譜と知ってる歌があれば何でも弾けるようになった。それで中学は大スターになっちゃって、そのおかげでこういう商売についたっていう。何かプロセスが…。根底に何かそういう屈折した部分っていうのがあってね。それはもうどうしようもないっていうか。もう直すべき部分なのかそれとも守っていったらいいのか」

ー尾崎さん「天職」って言ってるでしょ。どっかのインタビューで見たけど歌うたうとか表現することに関して。その言葉はそういう風なところから。

尾崎「そうですね。それが、ま、本当に「天職」っていうニュアンスなのかわからないんだけど、これがなかったら僕はどうなんだろっていう感じはありますね」

ーああ。だけど考えたらそれはそうだよね。20歳でさ、1年に90本だか汗流して本気になれる作業があるっていうのって、すごく幸せなことだもんね。

尾崎「そうですね」

ーこの後、欲しいものって何ですか?え、それがCDプレイヤー欲しいとか、ごくくだらないことだったりすると僕は好きですが(笑)。

尾崎「(笑)そうですね。聴いてくれる人の層みたいなことかな…。今まではティーンエイジャーとかそういう人だったけど。あ、もちろんいわゆるメッセージが必要だという気がするんですよ。今、目をそむけたくなるようなものってあると思うんですよ。いわゆる社会問題になってるようなものっての。イジメとか、人が殺人を犯してしまうこととか。そのなかで僕は若者があまりにも無知だと思うのね。どうしたらいいのかぜんぜんわからないような状況だと思うの。それは社会の風潮があまりにも一方の方向へ流れすぎたと思うのね、だから逆に流してあげるものが今、必要だと思う。今、戦後のどさくさにまぎれて戦後を必死に生き抜いてきた親父に育てられたとか、今、親父になったような人、そういう人たちが、まだ同じ方向に流そうとしていて、若者は、あれっこっちだと思ったんだけどあっちなのかなって迷ってるとこだと思うの。それをこっちでいいんだよって言ってあげたいっていうのかな」

ーうん。OK。本当にそうだと思う。どうもありがとうね。頑張って!

尾崎「いえ、こちらこそ」