ブーニン『チェーホフのこと』

読み返していた山田太一さんのエッセイの中で触れられていた『ブーニン作品集』(群像社)を散歩中に寄った新古書店で見つけ、喜び即購入。チェーホフのこと』というここでしか読めないらしい回想が目当てだったのだが、思ったよりも短い覚え書き的な内容。引用されているチェーホフの手紙の多くは、貴族的な人々の(文学的)人道主義に反発した内容が多く面白い。彼の熱烈な支持者であり理解者といった筆致のブーニンも「チェーホフは長いこと「陰気な」作家、「たそがれ気分の歌い手」、「病んだ才能の持ち主」、なんでも絶望的に冷淡に見る人という呼ばれ方しかしなかった。いまは別の方向にたわんでいる。「チェーホフ的な優しさ、悲哀、暖かさ」、「チェーホフ的な人間愛」。彼が自分の「優しさ」について書かれたものを読んだら、どんな感じがしたか察しがつく!「暖かさ」や「悲哀」に至ってはもっと厭だったろう」と、読まれ方の軽薄さに苛立っている。まあ、熱烈に理解者と認ずる者はいつもそういうものかもしれないが。
エッセイで山田さんが印象深く語る、ブーニンチェーホフの戯曲(の、貴族の風俗の描写の不正確)を腐すくだりは、2~3ページと実際はごく短い。こうした拘られ方のポイントは、やはり実作者ならではのものなのかと、勝手に感じている。