自分を試し確かめる旅

音楽に限らないけれど、表現したり受け取ったりすることには、美意識やセンスの競い合いという部分がどうしても含まれる。だから、知識や経験の少ない最初のうちは、やたらフラフラしたり、逆に頑なになったりもしてしまう。
はじめから本質的に自分に深くフィットして動かないものもあるけれど、それとはまったく違う感覚、魅力に触れて、理解したくなったり羨ましくなったりもする。それでしばらく夢中になり、慣れて腑に落ちた時点で飽きたり覚めたりもする。自分にとっての重要度が不可欠な主食ではなく、おやつや嗜好品のようなものだとわかってしまうと。しかし、その魅力を受け取った感覚のコードや文脈のようなものはずっと自分の中に残っていて、それがあるタイミングで自然に浮かび上がってきたり、また必要や魅力になったりする。
年齢を重ねると、自分の経験の重量が増して、好みがはっきりし気持ちも安定してくるけれど、憧れや無いものねだりで重ねる回り道も、やはり無駄ではなかったとも思う。様々な他者を知って自分の個性や指向がはっきりするということもあるし、人間の矛盾を孕んだ多面性や、他者への理解糸口ができたり、一面好きになれたりする、幸せな効用があったと思う。
また、いつの間にか自分が変化していて、好みや必要が増していることも。