泉谷しげる『キャラは自分で作る』

最寄りの今野書店で、『キャプテン2』7巻と、泉谷しげる『キャラは自分で作る』(幻冬舎新書)を。近年、洋楽のロックジャイアント達の自伝にとても充実した内容のものが多く、日本でもインタビューや評伝でなく、アーティスト当人たちによる時間をかけた回想や自己省察が書かれて欲しい、内側からのロック史、同時代史が読みたいという気持ちが強いので、語り下ろしによるややチープで断片的な作りが少し残念なのだが、それでも語り自体は、もう怖いものがあまり無い年齢に差し掛かっていることもあってか、みもふたも無いと言っていいくらい率直で面白い。それでも露悪的にも下品にもならないところが泉谷の人格だ。
個人的には、同時代の大スタアの回想として、ショーケンとジュリーに少し触れられているのが嬉しかった。ショーケンは、新婚当時の彼らしい男気を感じさせる1コマ。ジュリーは、外見の美し過ぎる男の生き難さについて。
美空ひばりが、男ぶりのいい岡林に気があったエピソードなども、彼女自身の天真爛漫な率直さと、泉谷の語りの飾らない姿勢によって、却って彼等のチャーミングな魅力として伝わる。
繊細でありながら、野蛮なおおらかさを愛する泉谷のような視点と語りは、今では本当に貴重だ。

 

追記。

泉谷の新書を読んでいて、自分はやはり一面くそ真面目過ぎるところがあるなとあらためて思った。どこか倫理的であることを目指して、生きたり書いたりしているところがある。
泉谷は思想家ではないから、書くことが嗅覚と経験に依っている。倫理的には矛盾したり混乱したりしているけれど、半面実際的だ。こす狡く逞しく生き抜け。臆病や弱さも武器にしろ…でも字面ほど実際の彼は単純じゃない。弱さがそのままで受け入れられる(べき)だなんて彼はまったく思っていなくて、その裏生地の慎重さや敏感さを武器として鍛えて生きのびろと言っているのだ。狡さだけで通用すると思っているだけでなく、他者と共存する為の「程」や配慮も人一倍考えている。弱者が厳しい荒野で生き延びる姿勢を実際的に説いているのだ。
そして、一つ一つの局面での判断は、実は字面ほど自分と彼は違わないだろうとも思った。ただ、自分の場合は、とことん突き詰めた時、実際の勝負では弱者だったとしても、いかに自分を律し、支えて、不幸な意識に落ち込まないようにするかを重点に考えるから、どうしてもストイックな書き方になる。自分を支える為の律は大切だけれど、生きることはもっと散文的だから、実際的な姿勢に振れたり揺れ戻したりすることも大切だなと思った。

加えて、コンプレックスはたっぷり自覚しているけれど、被害者意識は無い彼の健康さは、やはりいいなと思った。