新雑誌『For Everyman/フォーエブリマン』創刊


3年越しで構想してきた雑誌の第1号が、ようやく刊行の運びとなりました。
創刊号は、旧作日本映画を紹介する特集が並びましたが、今後の号では、文学や音楽、マンガetc…といったジャンルの作家、作品が誌面の中心になることも、また、僕たちの暮らしそのものの中にテーマを見つけて特集していきたいとも思っています。
『For Everyman』は、広義の文学を軸とした、総合誌を目指します。


一人一人の暮し方や、文化的な消費嗜好が一見バラバラに多様化し、インターネットの普及で各々が自分の見たいもの、知りたいものだけを能動的に選べるようになったここ10数年。雑誌などの活字メディアも、各々の嗜好に合わせたマニアックな考察やカタログ誌的な方向(あるいは、自分達の小さな世界の心地よさだけを、まっすぐに求める姿勢)へと、舵を切ってきました。


また、それに対する反動のように、批評や報道の世界では、各々が暮らしを体感し合う場を持たないまま、他者の存在を書き割りのように把握し、世の中を構造的、合理的に裁断していくような言葉が、寄る辺のない個人を脅かしているような状況もあります。


個別の事象に対して深く掘り下げることも、また、現実を俯瞰して地図を書いたり、大きな方向を模索することも、共に大切なことだと思います。
ただ、現実を生きる僕たちは、蛸壺のような世界に閉じこもりきることも、或いは、現実のすべてを把握し、定見を持つこともできません。
そして、現在の言論の状況を見渡すと、各々が自分の世界認識の広さ、完全さを言い張る競争自体が目的化してしまっていたり、それから逃れるように、趣味嗜好の世界にのみ閉じこもってしまうことが、あまりにも多くはないでしょうか。


今、必要なのは、世界を俯瞰、把握などしきれない自分たちを認識した上で、どんな生き方が可能か、何を幸福と考えるのかという問いに、静かに向き合っていくことだと考えます。
とはいえ、僕たちは一つの安定した価値観だけを信じ、生きていくには、あまりにも流動的、抽象的に拡大した世界を生きています。そこに向き合い、どう生き延びていくかを考えないわけにはいきません。
しかし同時に、常に動静を把握し続けることばかりに汲々とし、急な流れのままに生き方を変え続けていくことも、現実を生きる人間にとっては、辛く非現実的なことではないでしょうか。
人は、どんなふうにでも生きられるわけではない。けれど、ただ中空に個人として生きているわけでもない。
取り囲む現実が流動的で、一人一人が生きるよすがを見い出しにくい現在、ただ人を先へ先へと煽り、脅かすのでなく、いかに少しでも確かな生き方や繋がりを築いていけるか。


例えば、誌面に並ぶ記事の内容を、各々がすべて理解できなくても良い。
世界観の完成を性急に目指さず、各々が緩やかに影響し合いながら、常に試行錯誤がなされている状態(そしてその速度が、個々の人々の暮らしを、追い立てすぎない状態)を、理想としたいと思います。
意識するのが辛いこと、言いにくいこと=切実なことほど、努めて柔らかい姿勢で、しかしなるべく逃げず、恥ずかしがらずにゆっくり考える。
個々の現場、現実の深さを安易に整理することなく、世界の繋がりや広がりを少しだけ感じながら、各々のスピードで、じっくりと自分の生き方、暮し方を思い、考えていけるような誌面を、本誌は目指して行きたいと思います。

For Everyman/フォーエブリマン vol.1

特集1 「いま、木下恵介が復活する」山田太一×原恵一 4万字超ロング対談 
「日本の社会はある時期から、木下作品を自然に受け止めることができにくい世界に入ってしまったのではないでしょうか。しかし、人間の弱さ、その弱さが持つ美しさ、運命や宿命への畏怖、社会の理不尽に対する怒り、そうしたものに対していつまでも日本人が無関心でいられるはずがありません。ある時、木下作品の一作一作がみるみる燦然と輝きはじめ、今まで目を向けてこなかったことを多くの人がいぶかしむような時代がきっとまた来るように思います」山田太一『弔辞』より
震災を経験し、バラバラな個人が貧困の影に怯えるいま、「近代個人の淋しさを人々に味あわせるに忍びない感受性を持ちつつ、自身はその孤独を敢えて引き受けて明晰な個人であろうとした」通俗を恐れない巨匠が、最良の後継者お二人の語りの中に蘇る。


特集2 大映「悪名」「犬」シリーズ再見&藤本義一ロングインタビュー 
「現実を安易に楽観せず、だからこそ否定面を大げさに嘆くほど呑気でもない」「苦しみ、哀しみを受け止めながら剥き出しにしすぎない、隣人への節度と労り」娯楽映画の安定感について。
今東光勝新太郎田宮二郎、そしてアルチザン魂を語る。(取材・構成 奈落一騎)他


未公開シナリオ『六連発愚連隊』全掲載&追悼高田純 
仁義なき戦い』と『ガキ帝国』を、結ぶミッシングリンク
「人や社会の汚れを認めず、否定すればするほど、極道は減ったかわりに、カタギ外道が増えてはいませんか?」
ピラニア軍団松田優作泉谷しげるらの熱き連帯。そして、笠原和夫の「100箇所の付箋」。


●『本と怠け者』&『For Everyman』ダブル刊行記念 荻原魚雷×河田拓也「高円寺文壇 再結成対談」
「誰もが明るく生きられるわけじゃないし、苦しく考えながら生きざるを得ない人生もある。地味な文学者たちに、そんな勇気と居直りを貰った」
下積み経験と、文学遍歴を語り合う。


書評 
山田太一空也上人がいた』  河田拓也
竹中労『聞書 庶民列伝 上』  佐藤賢
古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』 渡辺真吾
『脚本家白坂依志夫の世界』 松本るきつら
高野真之BLOOD ALONE』 たかやまひろふみ


エッセイ
追悼 出崎統  松本るきつら
「祭ばやしが聞こえない 〜関東甲信越小さな旅打ち〜」  天野剛志


『For Everyman』発刊の言葉に替えて
ジャクソン・ブラウン&デヴィッド・リンドレー『LOVE IS STRANGE』について 河田拓也


表紙イラスト TAIZAN
http://www.facebook.com/pages/%E6%B3%B0%E5%B1%B1TAIZAN/154855114587879
写真 藤井豊(岩手県普代村堤防 4月撮影)
A5版 240ページ 1000円(税込)

18日から31日まで、京都のガケ書房恵文社一乗寺で開催中の「きょうと小冊子セッション」http://gakeibunsha.jpn.org/?p=77
及び、神保町東京堂書店1F一般書コーナー、3Fリトルマガジンコーナーにて先行販売しています。
その他、取扱店については、オフィシャルブログ開設までの間、当ブログと河田のツイッターにて、順次お知らせ致します。
信販売については、ブログ開設までしばらくお待ちください。