宮部みゆき『夢にも思わない』

浅羽通明さんがTwitterで紹介されていて興味を持ち、宮部みゆき『夢にも思わない』を読んだ。普段ミステリーを殆ど読まないので比較では分からないのだけれど、引き込まれる面白い小説だった。
ただ、ここで事件のキーになっている中学生の女の子の、半ば無意識の小さな狡さや差別心というのは、決して女性特有のものでは無いと思った。自分をごく普通の、それも保護されるべきちょっと弱い人間だと思っている多くの人、いわゆる小市民的な人たちが、良きにつけ悪しきにつけ自我が強かったり、個性が際立っている、つまりいくらか「普通でない」人間に対して、大抵持っているものではないだろうか。それを敏感に見逃さない作家の眼力はさすがだと思うけれど、自分はしばしばこういう場面で腹を立てながらも、半ば諦めてもいる。相応の孤立や痛みを伴った動機がないと、こうした無意識の悪をなかなか倫理的に遠ざけられないのではないだろうか。だからこちらで、相応の心の距離を取り、防備していくより無いと。なるべく憎まないで済むように。

追記。
小説についてもう一言付け加えると、もう一人の不良少女の凛とした人物造形が、読後感を救ってくれていて、気持ち良かった。

男女問わず、媚態で世渡りしている人、それに反省の無い人を(媚態を受け入れることを美化している側も含め)、不潔で好きではないけれど、水が低きにしか流れないこと自体は防ぎようが無いとも。「あざとい」と自分で先回りすることを、自他共に許すような方向さえ、もはや際限が無く。それを醜いと感じ、我慢出来ない一人一人が、厳しい美意識によって得られるものによって対抗していくより無いと。