色川武大×小田島雄志×神吉拓郎×油井正一「銀幕の恋人をフルイにかけりゃ」

ーお集まりいただいたのは、とことん映画好きの方々ばかりです。今日は一晩、かつての「ミーハー」少年に戻っていただいて、女優品定めに大いに花を咲かせてくださいますよう…。

油井「一番年長のぼくが青春の血を沸かした女優たちは、みなさんには凄いばあさんだろうから(笑)、やりにくいんだよなあ」

色川「でも読者からみれば、全員そうじゃないですか(笑)。油井さんは、無声映画の頃からごらんになってるんですか」

油井「トーキーは初期から全部観てるんですが、無声で覚えてるのは、フリッツ・ラングの『メトロポリス』『サンライズ』あたりからですね。なにしろ、中学生は映画観ちゃいけないって時代だったから」

神吉「われわれも映画はダメでした」

小田島「ぼくは戦時中に中学に入ったから、戦争映画しか観せてもらえなかった」

神吉「学校推薦というのがありましたねえ」

色川「古本屋で買った戦前の映画雑誌見てたら、読者欄のところに中学生で投書している人がいるんです。それがなんと、山田風太郎さんなんです(一同、驚く)。山陰にいた風太郎さんが、学校で推薦するのは大概くだらない。自分たちが選ぶほうがずっといい映画であると。あの頃からあの人は正論を吐いているんだ」

神吉「そういえば、無声映画観たことあります。小学校の校庭で『旅順港開城』を。ま、女優は全く出てこなかったけど(笑)」

小田島「ぼくは、戦後のリバイバルでやっと無声映画を観ました」

神吉「結局、戦前のフランス映画なんかは、観たのはほとんど戦後でしたね」

色川「ぼくは子供のときにやっとドイツ映画に間に合ったぐらい」

神吉「色川さんは観始めた年が早いから」

色川「だけど早いから安い三本立てばかり(笑)、封切りは一本も観てないんです」

神吉「ところで、油井さんの時代のアイドル女優というと誰になりますか」

油井「ぼくは演技のうまい女優が好きなんです。たとえば、ドイツのエリザベート・ベルクナー。小田島先生の前で言うのはなんですけどシェイクスピアの『お気に召すまま』。これの名演には惚れました」

色川「『夢見る唇』とかね。ぼくの印象では、ちょっとふくよかなおばさんでしたけど。貴婦人の役とかコスチューム・プレーがありました」

油井「あの頃三十過ぎてたのに、非常に若々しい印象を持ってます」

色川「ぼくは子供でしたから。油井先生ぐらいの年だったら違ったんだろうけど(笑)」

「カット割り言いましょか」

小田島「油井さんはグレタ・ガルボなんてのは…」

油井「うまいんだか下手なんだか皆目わかんないんだよね。まあ、『グランド・ホテル』などは筋が面白いし、いろんな役者が出てくるから観れるけど、ガルボ一人の『椿姫』なんか、もう退屈しちゃって(笑)。ぼくはガルボよりはディートリッヒだね」

色川『アンナ・カレニナ』のガルボは、やっぱり綺麗だと思いましたが」

油井「あの辺のMGMの女優だったら、ジョーン・クロフォードサマセット・モームの『雨』、これがぼく好みの映画でねえ。「セントルイス・ブルース」が流れて、娼婦サディ・トンプソンが玉すだれみたいなのを押し分けて現れる場面にグーッときたゃった。淀川長治さんに話したら、「そうでっしゃろ、よろしおまっしゃろ。あれ、カット割り言いましょか」って(笑)」

小田島「日本じゃ、奈良岡朋子さんがやったんだけど、どうも娼婦に見えなくてね。牧師が惚れて当然だと思った(笑)」

色川「ジョーン・クロフォードというのも、年増まで出てたんで…。昔のポートレートなんか見ると綺麗なんですね」

油井「年増になっても『何がジェーンに起こったか?』のいやらしい役はよかった」

小田島「『ユーモレスク』の煙草吸う格好、ぼくもあんなふうに煙草吸いたいと憧れましたねえ(笑)」

色川「子供じぶんに分かりやすかったのは、シルヴィア・シドニー。『市街』とか『暗黒街の弾痕』とか、ギャング映画が多かったな。ちょっと踏みつぶしたような顔した(笑)。それとダニエル・ダリューですね。これはもう美人の標本みたいだった」

小田島「ぼくがダニエル・ダリューをはじめて観たのは『うたかたの恋』、もちろん戦後だけど。親父からさんざん聞かされて、「これは白痴美だ」という先入観持ってたからなあ(笑)」

油井「昔の印象がすばらしかっただけに『奥様ご用心』(57)あたりになるとがっくりきちゃった(笑)」

小田島「ディートリッヒは、年取ってからでもよかったけども、ダニエル・ダリューはかなり落差がありましたね」

神吉「マーナ・ロイクローデット・コルベールあたりはずいぶんと長持ちしてたなあ」

小田島「ところで、フランソワーズ・ロゼェの若い頃ご存知ですか?」

油井「いや、知らない。『外人部隊』以後しか」

小田島「映画ではおばあさんしか観てないんですよ。初めからああだったのかな(笑)」

神吉「アルレッティなんかもそうですよね」

色川「最初からおばさん(笑)」

神吉「わりと不幸なんですね。戦争中に盛りだったから、日本に入ってないものが沢山あると思うんですよ」

色川「『天井桟敷の人々』の前に名前知ってたから何かで観てたと思うんだけど。『悪魔が夜来る』かなァ。それとも映画雑誌でスチール見て知ってたのかな。はじめはシャンソンの人だと思った」

小田島「中学のとき見た『カルメン』のヴィヴィアーヌ・ロマンス、これが中学生には刺激が強かった(笑)。夢に見るぐらいだったけれども、何か危険な、近付けない妖艶さを感じましたね」

神吉「最初に好きになる女優は濃艶なのかもしれないね。やっぱり僕もミレーユ・バランだったし。『望郷』なんかあとで観るとちっとも良くなかったけど」

小田島「あと中学生で親しみを感じたのはコリンヌ・リュシエール。『格子なき牢獄』のときは十六、七ですか。バーグマンなんてのはすでにお姉さまって感じだけど、リュシエールは年上でも同世代にみえました」

油井「彼女は主な作品といえるのは二本しかないんだ、のちにナチスの将校と同棲していたのがもとで対独協力で捕まっちゃったでしょう」

小田島「ぼくが大学のときに彼女が死んだんです。冬休みで九州にいたんだけど、中学時代の友人に便箋七、八枚に綿々と悲しみを書いて東京に送ったら、入れ違いにその友人から葉書が来た。「コリンヌが死んだ、フランスのリュシエールが死んだ」って二行。これは負けた、って思った(笑)」

色川「ぼくが初めてセックス・アピールみたいなものを感じたのはモーリン・オサリヴァンだな。小学校の一年ぐらいだったけど」

油井「なんといっても、『ターザン』シリーズ、ジョニー・ワイズミュラーと組んだジェーン役ですね。布きれがからだにかろうじて貼りついてる感じで」

神吉「彼女、ミア・ファローの母親なんですよね」

油井「へーぇ、そうですか。彼女の真面目な役ってありましたっけ、記憶にないけど」

色川「『響け凱歌』とかね、脇でも出てたんですよ。特長はないけど、厭味のない感じのいい子だったな」

小田島「油井さんはアメリカの女優さんのほうがお好きのようですね」

油井「まあ、どっちも観てますけど、『会議は踊る』は題材が歴史的に面白かっただけで、宝塚を映画にしたようなもんでね(笑)。あの監督(エリック・シャレル)がアメリカで作った『キャラバン』と出来は大して変わらない。『キャラバン』にはロレッタ・ヤングジーン・パーカーという二大美女が出ていて、リリアン・ハーヴェイよりはみごたえがあったです」

色川「ぼくなんかリリアン・ハーヴェイなんて年増にみえてしょうがないな」

小田島「ぼくは三回か四回目に観てあっと思ったのは、ロシア皇帝に彼女が花束を投げる場面。「この人、ぎっちょだ」って(笑)」

神吉「これは発見だ。あれだけ一生懸命投げてるんだから、絵の都合じゃないでしょうねぇ」

 

大女の味と小女の味

色川「小田島さんは戦争中に観られませんでした?」

小田島「ぼくは満州だったんです。親父なんか『会議は踊る』はそこで観てるんだけど、ぼくはエノケン(笑)。引き揚げてきて最初に観たのが『カサブランカ』でした」

色川「あのバーグマンは綺麗でしたね」

神吉「ぼくは彼女みたいな大女が好きでねえ、珍しかったせいかもしれないけど」

色川「ぼくは大女は嫌いなんだけど、彼女だけは例外なんだ」

神吉「ラブ・シーンのときの目の動きなんてのは、「こんなうまい女優はいない」って思いましたね。あと、エヴァ・ガードナーアリダ・ヴァリも大きい」

小田島「そういえば、キャサリン・ヘプバーンも背が高いですね」

色川「あれは痩せてるから意外と高く見えるんじゃない?」

小田島「いや、長身痩躯という感じ」

神吉「ボーイッシュなんですよ、猛烈に。うーん、光り輝いてたなあ」

油井「全部鋭角で出来てるような、ああいう氷柱みたいな人はかなわん(笑)」

神吉「針金細工みたいな人だ(笑)。彼女だけはライトが強く当たってる感じが昔からあった。なんかいつも光ってるんです。なかから精気がほとばしるみたいな」

小田島「ジョージ・キューカーも彼女が出たときの印象として、「彼女の顔は光があった。輝きがあった」と本の中で言ってます」

色川「若い頃から貫禄があるような役者。金持ち娘の役なんか合ってましたね」

小田島「『旅情』で運河に落っこちる場面があったでしょう。ぼくも一回落っこちてみよう(笑)、と思いながら、あの場面求めてヴェニスを歩き回ったけど見つかりませんでした」

神吉「大女でまた猛烈に好きなのが、レックス・ハリスンの奥さんだったケイ・ケンドールなんです」

色川「色っぽかったですね」

神吉「イギリス人には珍しい柔らかさがありました」

油井「なにか香気漂う感じね。かわいそうにすぐ白血病で死んじゃったけど」

神吉「『裏町』のマーガレット・サラヴァンっていうのもすがれてて、薄幸という印象だった」

色川「香りがありましたね」

油井「昭和初期の日本人には、絶対ウケるような感じ」

神吉「しかし、綺麗な人だった。ちょっと『心の旅路』のグリア・ガースンと似てる気がするんだけど」

色川「いや、サラヴァンのほうがソフィスティケートされた…」

油井「彼女のほうが、もっと若くて可憐で、なんともいえない哀愁が目元にあった。ヘンリー・フォンダウィリアム・ワイラーと次々に結婚、睡眠薬飲みすぎて五十前に死んじまった。ジェーンとピーター・フォンダはその次の結婚で生まれたんです」

神吉「逆に小女となるとフランスに多い気がするな。フランソワーズ・アルヌール、ダニー・ロバン、ダニー・カレル、パスカル・プティも小さいのに胸だけ大きくて…。ぼくは小女も好きなんです」

色川「じゃあ、なんでもいいんじゃない(笑)。アメリカだとテレサ・ライトデビー・レイノルズ

油井「日本人好みとなると、ジューン・アリスンとかドナ・リード、モナ・フリーマン」

色川「ゲイル・ラッセルも日本人には人気がありましたね。『呪いの家』だとか『ピンクの旅行鞄』とか、あまりいい映画に出てないけど」

神吉「髪はブルネットで青い目。美女ですねえ。海賊ものによく出てた」

色川「彼女も気の毒な死に方をしたらしいですね(晩年はアルコール中毒となり、61年、アパートで酒瓶に囲まれて死んでいるのが発見された)」

神吉「ミシェル・モルガンってなは、不思議な女優さんだと思いません?」

小田島「『霧の波止場』が有名だけど、『赤ちゃん』にも脇役で出てますね」

油井「ミシェル・モルガンもその頃は、「ああ、付き合いたいな」と思うぐらい可愛かった。でも、だんだん…」

神吉「爬虫類みたいになっちゃった」

油井「知性が勝って、尻に敷かれそうでね」

小田島「「田園交響楽』あたりから、神秘的になっちゃいましたね。でも、あの人のレインコートのポケットに手を突っ込んで歩く姿、いいですねえ」

油井「いいところをご覧に…(笑)。ぼくもコートを着た後姿にはときめいたなあ。
ジャンヌ・モローとか、シモーヌ・シニョレも若い頃はなんとも可愛いんだけど、年取ると怖くなるでしょう。あのタイプがヨーロッパはあんまり…(笑)」

色川「ジャンヌ・モローベティ・デイヴィスってのは似てるんじゃないかな」

神吉「質が似てるんですよね。アメリカで栽培すればベティ・デイヴィスになる(笑)、アイダ・ルビノをうんと引き伸ばすと、メリナ・メルクーリになりませんか?」

小田島「ギリシャ売店のおばさんに、「メリナ・メルクーリに似てる」って言ったら、喜んでコーラ一本サービスしてくれた」

神吉「ひとつ覚えたぞ(笑)」

 

裸のモンローが目の前を

小田島「ところで、エリザベス・テイラーオードリー・ヘプバーンといったところが出てきませんが」

神吉「これはやはり大山脈ですから」

油井「エリザベス・テイラーは綺麗になったり、汚くなったりするんだよね(笑)」

小田島「リズ・テイラーというのは、まあ美人だと思うけど、なんとなくハートにこないんだな。女優というものは、少し崩れてもどこか「胸」にきてほしいのが、彼女の場合は「目」で止まっちゃう感じがする」

色川「でも、オードリー・ヘプバーンよりは、彼女のほうがケーキを食べてるような、まあ、ゴージャスだから必ずしも魅力的というわけじゃないけども。オードリー・ヘプバーンはどこかゴリゴリしてて…」

神吉「そうなんですよね。リズだったら『陽のあたる場所』あたりはよかったけど」

油井「『バージニア・ウルフなんかこわくない』になると、もう本当に怖くなっちゃう(笑)」

神吉「意外とよかったのが、『バターフィールド8』。『ジャイアンツ』の太り具合はちょっと…」

色川「なにか再婚したような…(笑)」

神吉「ちょっと俵をくくった感じがあった(笑)」

油井「そろそろみなさん、マリリン・モンローにいってもいいんじゃないですか?」

色川「もちろんです。『アスファルト・ジャングル』が一番好きだなあ」

小田島「『七年目の浮気』で、トム・イーウェルが妻子を避暑地にやって、さあひとりになったと思ったときに、上からトマトが落ちてきて、それからモンローが降りてくるでしょう。あれはギャグなんですね。ああいう女の子のことをアメリカで「トメトー」と言うらしいです」

神吉「いやあ、本当にきょうはずいぶん勉強になります(笑)」

油井「ぼくの五年先輩で、藤田光彦さんというクラッシックの大研究家がいた。彼はモンローの真裸を見てるんです」

一同「ヘェー」

油井「亭主のディマジオと一緒に来日したでしょう。藤田さんはまだ、凄いベースボールのファンだったから、大阪のホテルにディマジオにサイン貰いにいったんですよ。それで部屋に入ってしばらくしたら、シャワーの音が止まって、モンローが裸で出てきた。それから、全然彼の存在なんか気にしないで「ダーリン」だって。藤田さんによれば、「私はまるで透明人間であるかのごとく思った」と。もう話してるだけで胸が踊っちゃう(笑)」

神吉「それにしても、油井さんの青春は長いですねぇ(笑)」

小田島「モンローのエピソードをもう一つ。『王子と踊り子』撮ってるときに、監督兼任のオリヴィエがいくら注文しても駄目なんで、稽古を二日休んで、彼女のアドバイザーだったボーラ・ストラスバーグに台詞から動きから指示してくれ、と言ったんです。そしたら、ボーラは、「マリリン、あなたは世界のセックスシンボルなのよ、あなたは世界一素晴らしい女なのよ」っていうことしか言わなかった。オリヴィエはがっかりしたらしいけど、それでちゃんと演れちゃったって」

色川「本当にあれこそアメリカっていう感じです。もう、彼女が出るとあとが続かないよねえ」

神吉「それじゃ、ワースト女優なんてのを選んでみましょうか(笑)」

小田島「あんまり好きになれなかったのに、マール・オペロンというのがいたな」

色川「ぼくも駄目だ。『シュバリエの巴里っ子』とか、わりにいい映画に出てるんだけど、そのくせ…」

小田島「『嵐が丘』なんか観ても、なんとなくノペッとしててね」

油井「あれは人相的には後家相なんだよね(笑)。たしか政治的に撮影所のお偉方とくっついたことによって、生き延びた女優ですよ。(資料を眺めながら)ほら、2回もそうでしょ。それから57年、大金持ちと結婚、悠々たる富豪生活に入ると書いてある」

神吉「ああ、それで引退…」

油井「後家相のわりにはいろんなことを(笑)」

ーワーストが出てきたところで…(笑)。きょうはこの後ひと工夫ございまして、これから色川邸にお邪魔して噂に名高いビデオのコレクションを拝見しつつお話いただこうかと…」

(油井、神吉、小田島三氏いっせいに)「ぜひ!」

 

(色川邸到着)

油井「うひゃー、これは驚いた」

神吉「ここに入ったら、一週間は出られませんねえ」

油井「いやあ、それだけじゃきかないですよ。ああ、たまらん。これ眺めてるだけで、なんかもう満腹してきた(笑)」

色川「ぼくも観るまでは手が回らないんですよ。ただ、買い集めるだけで…」

色川夫人「うちでは編集者の方が一番観てるんです(笑)」

ーというわけで、みなさんが選んだ一本『七年目の浮気』を鑑賞。そして、深夜まで、はてしなく女優談義は続く…。

小田島「やっぱり、30~40年代頃は女優のために映画を作ってたという気がしますね。その後変わってしまうのはモンロー以降、そういう女優が出ないからかな」

油井「顔つきを見るとわかるんだけど、60年代以降は美人であるのがマイナスであるような、そんな傾向がありますね」

神吉「適材適所ということで、キャスティングがずいぶんシビアに考えられるようになってきた。まあ、スター・システムが崩壊しちゃったということですね」

ー名前はすでにたくさん挙がりましたので、今度は趣向を変えまして女優さんをタイプ別に見立てて頂くのはどうでしょう。

神吉「じゃあまずは、貴婦人タイプから…」

色川「グリア ・ガースンはどうですか?」

神吉「ちょっと成り上がった印象がありますねえ」

小田島「エドウィージュ・フイエールなんかが貴婦人役を演ったらいいだろう、と思うんですけど」

神吉「そういう意味からいえば、あのフランスの大おばさん」

小田島「フランソワーズ・ロゼェ。たしかに気品はあるけど…」

色川「年増になっちゃうからなあ(笑)」

神吉「グレイス・ケリーはいかがですか?」

小田島「実際、貴婦人になってる(笑)」

色川「この頃の本じゃ、クーパーとどうしたとかクロスビーとどうとか、いろいろ取り沙汰されてるけども、本当の貴婦人というのは、やはり邪悪な要素があるのかもしれない。マリー・ベルはどうです?」

小田島「あっ、いいですね」

油井「いや、『舞踏会の手帖』だったらいいんだけど、『外人部隊』とか思い出すと、ちょっと…」

神吉「じゃあ、これも外しますか(笑)。貴婦人ってのは難しいなあ」

油井「あっ、キャサリン・ヘプバーンなんてのは意外に…。あれなんか、どうしたって裏長屋のかみさんにはなれないから(笑)」

色川「そうですね。ただ、『アフリカの女王』は、ちょっと金がなかったようだ(笑)」

神吉「マイナス材料は出てきます(笑)。でも、『冬のライオン』なんかはまさに貴婦人でしょう。彼女なんかはいい線だと思う」

小田島「あれは奥さんにもしたくないし(笑)、愛人にもしたくない(笑)。やっぱり貴婦人として崇めてるほうがいいもんね」

神吉「まあ、こういうのは縁がないからいいんじゃないですか(笑)」

色川「じゃあ、愛人にしたい人にしましょう。ぼくはあまり持ちたくないけど(笑)」

油井「なかなか用心深いですね(笑)。ぼくはなんといっても、フランソワーズ・アルヌール」

神吉「ぼくはケイ・ケンドール、でかい愛人だけど(笑)」

色川「マリリン・モンローだな」

神吉「それはもう、いわずもがなですよ」

バルドーは週一、アナベラ週三

小田島「(溜息交じりに)目移りするなあ、愛人となると…。二号、三号、四号と(笑)」

色川「ブリジット・バルドーマリリン・モンローだったら、どっちいきます?」

小田島「ぼくはバルドーですね。モンローぐらいになると、こちらのセックスを刺激するよりも萎縮させてしまうところがあるんです(笑)。だから、モンローは仰ぎ見るだけで充分です」

神吉「愛人となると、キム・ノヴァクなんかわりといい線ですよ」

色川「あっ、いいですね。じゃあ、ちょっと取り替えて…(笑)」

小田島「疲れると思うなあ」

油井「ずいぶんと妄想されますね(笑)」

小田島「ぼくは若い頃のヴィヴィアン・リーを憧れの人として、ブリジット・バルドーをそばに置いときたいって感じかな」

色川「ヴィヴィアン・リーは女房に?」

小田島「これはもう、女神として(笑)。そうだ、アナベラもいい。バルドーを週一で、アナベラを週三ぐらいにして、と(笑)」

油井「アルヌールは囲っとくにはいいけど、クリスチャン・マルカンみたいなの出てくると危ないからなあ(笑)」

色川「女房タイプにしましょうよ」

油井「危険だなあ、クビにされちゃう(笑)。あれ貰ったらいい女房になるよって、誰かに推薦するという無難な定義でいきましょう(笑)」

色川「ローレン・バコールはかみさんにどうですか」

神吉「怖そうだなあ」

小田島「ジューン・アリスンとか良妻賢母型は?」

色川「いや、あれは貰いたくない。女房も退屈しないほうがいい(笑)。贅沢だけど」

小田島「邪魔にならずに(笑)」

油井「モニカ・ヴィッティは愛人タイプかな」

神吉「そうですね。あれが奥さんだったら困りますよ。まず、飯炊けないだろうし(笑)」

色川「財政的に破綻しちゃう(笑)」

小田島「アヌーク・エーメなんかは?」

色川「あれは朝の寝起きの顔がよくない(笑)」

神吉「たしかに寝起きは倍ぐらい顔が大きくなってそうな気がしますね(笑)。キャンディス・バーゲンはおかみさんによさそうだ」

油井「全部任せきりにできそうでね」

小田島「働き者としては、マリア・シェルなんか、どう?」

神吉「だんだん乗ってきた(笑)」

小田島「これは働きそうでしょう」

色川「ヒモみたいなこと言ってる(笑)」

小田島「バーグマンはどうしようかな」

色川「あれはカサブランカに行ったときに。トルコ風呂に置いといて…(笑)。ディートリッヒはどうですか」

油井「額縁に入れときましょうよ(笑)」

色川「モーリン・オハラは包容力がありそうだし、かみさんにいいでしょう」

小田島「酒飲みじゃないですか。モーリン・オハラ・庄助(笑)」

神吉「飲みそうですね、アイリッシュだし。あの人、ニンフォマニアだそうですよ、映画館のなかで行ったなんて話が…。マーナ・ロイもいいと思うけど」

色川「年取ってからの彼女ならいいけど、あれ養うには相当ゼニがかかりますよ、やっぱりマリア・シュルのほうが…(笑)。ジーン・アーサーはどうです?」

油井「いや、「俺は善人だ」観てると女性上位になりそうだ(笑)。貰いたくないけど、かみさんにしかなれない女といえば、エヴァ・マリー・セイント(笑)」

小田島「三十分ぐらいデートするなら、ジーナ・ロロブリジーダでもいいと思うけど、あれ、もの凄く喋りそうだから(笑)」

神吉「猛烈に香水つけてそうな気がする(笑)。彼女とのデートのあとは、口直しに少しさっぱりした人がいるなあ」

色川「旅行に行ったときは、リタ・ヘイワーズです。住所教えないけど(笑)」

神吉「スィートなんか一緒に泊まるにはいい。ちょっと付き合うだけならアルレッティなんかもいい」

色川「外を連れて歩きたい女。これは女優さんなら結局誰でもいいけど、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のラナ・ターナーが最高…。エヴァ・ガードナーもちょっと連れ歩きたい気がする」

神吉「飲むとひどいらしいですよ」

色川「いや、連れ歩くだけ。どこにも入らない(笑)」

小田島「エヴァ・ガードナーは自信ないな、ピア・アンジェリだと大丈夫。大丈夫なんて言って…(笑)」

油井「ジェーン・フォンダなんかは耳栓しないと連れ歩けないだろうね(笑)」

小田島「可憐系なら『ライムライト」の頃のクレア・ブルーム」

神吉「少し後ろから歩いてくれそうですね」

小田島「でも、何話そうかな」

神吉「いや大丈夫ですよ。シェイクスピアの話してれば(笑)。しかし、普段付き合うとなると困るような人ばっかりだな。さすが女優というべきか」

油井「やはり女優は女優だから本当の姿は…、役のうえからしかみえてこないですね」

色川「それにしても、こういう話してると罪がなくていいですねぇ(笑)」

 

究極のピンナップ・ガールは

ー最後に、みなさんがピンナップにしておくとすれば誰になりますか?一枚だけですよ。

小田島「いやあ、これは難しい…」

(しばし長考ののち)
ーそれではご発表を。

油井「シルヴァーナ・マンガーノもいいけど、やっぱり『間諜X27』のディートリッヒ」

色川「『ターザン』で泳ぐときのモーリン・オサリヴァンです。あの衣装がいい」

小田島「平凡にブリジット・バルドー

神吉「ぼくは二人いるんです。アンジー・ディキンスンとケイ・ケンドール」

ーそれぞれの理由もご披露ください。

油井「ディートリッヒはたくさんいいのがあるけど、特にこの映画は彼女のために精魂込めて作られてる。キャスティングも、ヴィクター・マクラグレンなんて二流の人を相手役にして目立つ人をまわりに置かないとか。だから、スタンバーグ監督を動かした美しいものが、一番よく出てると思います。あそこから一枚欲しいですね」

色川「ぼくのは簡単なんです。いま思えば、さほどいい体でもなかったと思う。でも、裸に近い女性の姿を最初に見たという、なんか童貞を捧げた気がするんですよ(笑)」

小田島「ぼくは色川さんと違って奥手なもんで(笑)、こちらが色気づいたときに観たのがBBだったということでしょうね。
それと、脚が長過ぎたら蹴飛ばされそうだし、お尻が大きいと潰される。バルドーはちょうどいい気がするんです。前からも後ろから観てもいい感じだしね」

神吉「アンジー・ディキンスンは鼻と口のあたりだけでもいい(笑)」

ー百万$の脚線美はいらないんですか。

神吉「あの受け口に一番表情が出るんです。…でも脚があったらもっといいなあ。ケイ・ケンドールは『魅惑の巴里』でダイナ・エルグとミッツィ・ゲイナーの真中に立ってるところをぜひ。ぼくは幸運にも実物のタイツ姿を見てるんで、あの人も脚は結構です、…結構って素晴らしいってことよ(笑)。
しかし、きょうの話は女の人の恨みを買いそうだなあ(笑)」

ーどうも長時間ありがとうございました。

(文藝春秋87年7月臨時増刊「女優」)