11日追記 『マイマイ新子』と『赤毛のアン』

マイマイ新子との出会いのきっかけを作ってくれたid:Dersuさんが、レビューの後半部を加筆されていて、大変面白く読んだ(彼のものだけでなく、web上に次々にupされている感想には、自身の根本を見つめるような刺激的なものが多い)。
http://d.hatena.ne.jp/Dersu/20091202

この闘いは決して無価値ではなく、ここでふりしぼった勇気と得た経験は、
生涯自分を力づけてくれる類のものだ。もし何もしなかったとしたら、
別れに際してタツヨシは笑えただろうか?

たとえそれが周囲からははた迷惑であったり、道徳的には批判されてしかるべきものを含んでいた場合でも(あるいは、その時点で無思慮や無分別を含んでいたとしても)、それを引き受けて尚行動すべき時というのは、確実にあると思う(僕の場合、紡木たくホットロード』で、主人公の和希が、自分に向き合う担任教師の真摯さを内心理解しながら、それでもハルヤマとの同棲生活に身を投じるシーンを、すぐに思い出す)。
人は社会の中で、勇気のなさを「分別」と言い換えるような退廃したシニシズムに、往々にして陥りやすいものだからこそ。
そこまで意識的であるとは言えない、新子たちの子供らしい突飛な行動に重ねて、こうした話をするのはやや無理があるかもしれない。
ただ、自分を振り返ってみると、物心ついてからだって、オッチョコチョイでお調子者で、安易に他人に同情して走り出しては、結局自分と相手との落差を埋めることも、逆に開き直ることもできず、却って関係を微妙なものにしてしまうようなことが多かった。戦うべきことと飲み込み流すべきことの見境いが、今も付かないことが多い。
人は、ある程度物事を割り切り、開き直らなければ生きられないし、世の中も回らないけれど、それでも同時に、こうしたカタの付かない逡巡の積み重なりが、自分と他者やこの世界とを繋ぐ、大切な重石になっているという実感もある。
子供が信じたがっている正義や安心感を覆すような大人の素顔を見せながら、一方でシニシズムを先回りしない。
新子やタツヨシが見たものや、その結果について、先回りした主張をしすぎない、真摯に子供たちに向き合った結果であろう節度が、この映画の最大の魅力だと僕は思う。

もうひとつ、「空想の力」について。
僕が『マイマイ新子』を観るにあたって真っ先に連想したのが、『赤毛のアン』だった。
自分にとって『赤毛のアン』は、アニメのオールタイムベスト1級の作品で、最初のうち、田舎の描写や新子の空想の様子に、もう一つ魅力を感じにくかったのは、正直、『アン』を期待するが故の比較が念頭にあったせいもあると思う。
アンの空想の根が、孤独な生い立ちや、それが影を落とした故でもあるちょっとエキセントリックな性格にあり、そうした彼女の「空想による世界の見立て遊び」が、マシュウやダイアナを喜ばせ、受け入れられることをきっかけに、現実への出口を持ち、それを豊かにしていくことに、強い共感と憧れを感じた。
その点、空想の動機や背景については、新子は随分フラットで、あそこまで妄想に埋没する根拠が見えにくかった。
勿論、元気で素直な性質込みで、これは新子の魅力であり、間口の広さでもあるのだけれど、彼女をそう在らしめている彼女が住んでいる世界、昭和の田舎の(見た目のディティールだけではない)住んでいる人たち、特に大人の描写に物足りなさを感じたことだけは確かだ。
だから、新子の空想の根を感じにくかった(ちょっと意地悪く言うと「想像力の礼賛」先にありきというか、大人や元学校優等生が喜びそうな子供像っぽく見えて、抵抗を感じた。みんなで遊び廻るようになってからの見立てごっこでは、ほとんど気にならなくなったが)。
クローズアップされていたおじいさんやひづる先生は、当時の日本の平均値とはかなり距離のある、インテリでありエリートで、マシュウやマリラのような、その暮らしぶりと一体になった、正負込みの魅力と厚みを感じさせるキャラクターが、タツヨシの父親しかいなかった(できれば、「大人の事情」という負の側面の衝撃だけでなく、彼らの懐かしさと豊かさに出会いたかった。これは『新子』を十二分に認めた上でのないものねだりなのだけれども、それでもこの一点においてだけは、『サマーウォーズ』で藤純子が演じた栄おばあちゃんに、僕は軍配を上げる)。

『アン』の世界を僕が本当に好きだなと思うのは、大地に根付いた人たちの、不変で静かな生活(マシュウやマリラが代表するもの)と、それをバラバラにしてしまわない程度に吹いてくる近代の風(ステイシー先生やアラン牧師夫妻、ジョセフィンおばさん達がもたらすもの)の、素晴らしいバランスだ。
それは「戦うべきこと」と「受け入れるべきこと」の間で揺れる、節度ある緊張感とまっすぐに繋がっているとも思う。

以下は、僕の若い友人による、『アン』のこうした魅力にスポットを当てた論考。
この機会に、『アン』の読者、そして『マイマイ新子』に心を揺すぶられたような人たちに、是非紹介したいと思いました。
『L.M.モンゴメリの『赤毛のアン』について』
http://d.hatena.ne.jp/anneshirley/

赤毛のアン DVDメモリアルボックス (再プレス)

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