少女マンガいろいろ(1)


映画公開に合わせて、くらもちふさこ天然コケッコー』の新作が載っていたので、10年ぶりくらいで「コーラス」を買って読む。
本編冒頭の、東京からイケメン男子の大沢君が転校してくるエピソードを、大沢君視点で描きなおしたような話。
東京での大沢君は、ゲームとプロレスが好きな、朴念仁のオタク中坊そのもの。それが田舎に来ると、クールなお洒落さんに見えてしまってたというギャップも楽しい。
反抗期男子特有のクールぶった粋がりと、自分も他人も全然見えてない間抜けさ、煩ささ、可愛らしさが絶妙に描写されていて驚く。
内容だけじゃなく、それを描く描線が、ぶっきらぼうでまたクール。
くらもち先生のような大ベテランが、いまだ現役の中学生の生態をこれだけ的確に捉え、しかもそれを愛情を持って描く(更に、そのための方法論もしっかりと考え抜かれている)、そのタフでヴィヴィッドな才能のあり方には本当に圧倒される。


勢いで、単行本もはじめから読み返しはじめてしまったんだけど、これだけ肩がこらず、しかも瑞々しくて退屈しないマンガも珍しい。
それぞれのキャラクターにクセがあって、色々な軋轢やすれちがいが起るけど、結局大したことも無く終わる。本当はなかなか解決もせず、ケリが付かないことそれ自体が重大事だったりするのも現実だけど、だからこそ入り口にだけ触りながら、その後はあえてさらっと軟着陸させるさじ加減というか。なんてこと無い話を、読んでる間はまったく退屈せずに読ませてくれる間とテンポ、そしてちょっとしたリアリティーのフックの付け方が素晴らしい。
初期の王道少女マンガな作風から、中期の現実の断片を切り取って冷静に描写するちょっとシニカルな作風を経由しているからこその、純情素朴な人たちののんびりした日常を描いてわざとらしすぎず退屈にもならない、絶妙なバランスなのだろう。


正直に言うと、紡木たくの『瞬きもせず』を愛する自分としては、表面的にはリアルなようで、その実地方の子たちの属する小さな共同体の正負込みのリアリティや、東京との距離と憧れといった、彼らの思春期の葛藤の核にあるものがまるごとスルーされた『天コケ』の作風に、東京の人が安全に地方を消費しているような欺瞞を感じるところも、初読の時にはあった。
(逆に、紡木さんだって本当は神奈川出身なのに、どうしてここまで地方の人間の気持ちを、背景込みで正確に捉えられるのか不思議なくらいだったんだけど、先日こちらhttp://www.s-woman.net/mangaar/top.htmlで実は自ら山口県に移り住んで描かれてたってことを知り、徹底して真摯な創作態度にあらためて驚かされた)
それが、良くも悪くも繊細な葛藤に闇雲に向き合う季節を終えて軟化したのか、欲望全開の成れの果ての(現在の少女マンガ含めた)殺伐に疲れたのか、おそらく両方の理由で、このマンガの肩のこらない瑞々しさを、今では得がたく感じている。
特に気持ちがささくれて、気分を変えたいが何かを読む気力がない時などに、安心して手に取れる本当に数少ない、気安い友人のような存在になってしまった。

天然コケッコー (1) (集英社文庫―コミック版)

天然コケッコー (1) (集英社文庫―コミック版)

瞬きもせず 1 (集英社文庫(コミック版))

瞬きもせず 1 (集英社文庫(コミック版))