名花

最近出た『ロマンポルノ女優』(早乙女宏美 河出文庫http://www.kawade.co.jp/np/isbn/4309481566を読んでいて、かつて芹明香ファンによる『名花』というミニコミが存在していたことを知り、検索かけまくってネット古書店にて3号を発見。
32ページほどの小冊子だけれど、北川れい子桃井章、日活編集の鵜飼邦彦、加島絹代他の映画関係者、それにご本人まで加わった充実の内容から、当時の一部映画ファンの彼女への思いの温度の高さが伝わってくる。


この号の特集は、彼らファン20人による75年までの芹明香出演映画ベストテン。
この結果がまた渋くて、一位に初主演作『マル秘 色情めす市場』を抑えて、『濡れた欲情 特出し21人』が選ばれているのには膝を打った。
『マル秘〜』の、ギラギラとしらっちゃけた釜ヶ崎のモノクロ画像は確かに鮮烈だったし、芹明香の諦念と疲労感と、そしてかすかな希望への揺れが微妙に交錯する表情は素晴らしかったけど、どこか悲惨や不幸を耽美に表現しようとする作り手の意図と大仰さが鼻に付くところに、ちょっと抵抗があった。



例えば、鹿島茂『蘇る昭和脇役名画館』では『めす市場』を絶賛しながら、芹明香の新しさは「感じない女優」だったところにあり、「感じる女」を撮り続ける神代辰巳とは実は合わないんじゃないかと論じられているし、こういう具合に彼女に虚無と、その裏腹に外界をキッパリと拒絶する固い純粋さを読み取り、思い入れるタイプのファンに良く出会うけれど、それはあんまり図式的すぎるし、むしろ受け手の「観たいもの」が勝ちすぎて芹明香の本当の面白さを見過ごしてしまっていると思う。
だから、鵜飼邦彦氏によるペストテンの寸評、「「めす市場」が力作ながら一位にならなかったのは、やはりあの主人公トメが芹の実像とは必ずしもダブらない面があり、それが他の作品群と異質な感じを与えているからではないだろうか」は、やはり!と興味深かったし、『ロマンポルノ女優』での「清純派ではなく、お色気たっぷりでもなく、退廃的でもない」「暗いといえば暗いけど、目をそむけてはいけないナマなところを見せてくれ、「行くところまで行ったる!」という女の強さ、逞しさを感じさせてくれます」という簡潔、端的な紹介には、本当にその通りだと思った。


そんな、他のしょうがない男女同様、てんでばらばら好き勝手、でもスケコマシやレズショーの相手についつい「感情移入!」してしまう彼女を、大袈裟でも悲惨でもなく、「まんざらでもなく」、そして可愛らしく撮ってしまう『特出し21人』神代辰巳は、芹明香にとって唯一無二の、視線の高さを本当に共有する監督だったのだと思う。