泉谷は今も変わらずまとも過ぎる哀しいおじさん

「オレには嫌いなヤツがいっぱいいる。殴りたくなるヤツもいっぱいいる。それに、生理的に受け付けないっていうヤツもいっぱいいる。「万人を愛せ、差別をするな」って言われても、それはムズカシイわい。
差別をなくそうっていう意識は大事だし、オレも努力はしている。でもよ、人間の頭から完全に差別意識を取り除くことは不可能なんじゃねえか。警戒を怠ったら、やられちゃう場合もあるからよ。そういうことをしそうなヤツを、自分と同類だとは考えない。アイツには近寄らないようにしておこうって。それが差別といえば差別だよな。
それでも、社会っていうのは、嫌いなヤツともつながらなきゃならない。ミュージシャンやっていると、自分も嫌なヤツになってるしで、売れるってことは嫌なヤツになることかも。誰かが言ってたな、「嫌なヤツじゃないと売れない」と。
結局のところ、損得勘定だよ。利用価値があるという形で納得し、つながっておく。敵もまた取り込む特川家康的な感覚が大切なんじゃねえか。
でも、若いうちは、わかっていても制御がきかねえ。我慢ならなくて人を殴ったこともあったし、殴られたこともあった。で、結果的に、権力のあるヤツには敵わない。負けっぱなしよ。だから、オレは自分自身のことも含めて、敗者の世界を歌い続けている。オレが組んだバンドに「LOSER」って名付けたのも、そんなところから来ているんだ。
オレは敗者でも構わない。嫌いなヤツを殴り始めたらキリがないからな。利用価値ってところでお互いの存在を認め合い、殴ることをやめる。そうすれば、戦争だけは避けられる」
泉谷しげる『キャラは自分で作る』

自分もこの姿勢に同意だけれど、それでも最後に、人はどうしても利得の大きい強者とのつながりに偏りがちになること、そして持ち札が乏しく利得に絡みようのない者はどうなるのかという問題が残ってしまう。万能の解答、方策というのはなかなか無い。