映画三国志 90年日本テレビ 脚本笠原和夫 演出舛田利雄


90年に金曜ロードショー枠で放映されたらしい、笠原和夫脚本、舛田利雄演出による、岡田茂東映相談役の半生記のドラマ化。自分は存在をまったく知らず、別件のネット検索中たまたま発見。大下英治による原作も未読。



製作時期も時期な上、主演が中村雅俊だったこともあり、同時代風にソフトでヒューマンな味付けになっちゃってるんだろうなァ....と、出来にはほとんど期待せず、半ば資料チェックくらいのつもりで観始めたが、雅俊は意外な好演。東映戦争映画風に活舌よく怒鳴りまくらせ、キビキビと走り回らせる舛田演出と、元々のガタイの良さとが相まって、岡田の「どてらい奴」ぶりが良く再現されており、冒頭戦時中のシーンなど、ほとんど兵隊やくざのノリ。
軍人勅諭をかさに来て岡田ら学徒出陣兵を殴りまくっていた鬼軍曹が、戦後闇市でちゃっかり調子のいい飲み屋をやってたり、田舎の資産家である親族の使いでこっそり日本酒を運び込んでいたのが縁で東横映画入社が決まったりと、笠原節も快調。ステテコから横チンさせながら怪しい和製英語混じりでしゃべり、飲み屋の勘定から逃げまくる長門裕之のマキノ光雄や、ヤクザ絡みの揉め事を「顔」で収めてしまう山城新伍演じるマキノ雅弘の飄々とした怪しさなんかも中々はまっている。



と、言う具合に、猥雑、ハイテンションで羽振りの良い前半の展開が、中盤あたりで一転曇り始める。
岡田が自身の企画による『きけ わだつみの声』を、千恵蔵、右太衛門、月方龍之介ら時代劇畑の年長幹部達の反対を押し切り、東横映画の経営危機を乗り切って映画化、成功させるまでが物語の軸になっていくのだが、この本筋に入った途端に、何故かどんどんリアリティが失われていく。
戦没学生を兄に持ち、年老いた母との生活のためにニューフェイスから娼婦へと身を持ち崩していく新人女優の三原順子や、組でヘマをやり岡田を頼って東横入りする火野正平のチンピラヤクザの設定が取って付けたようにベタ過ぎ、彼らによる愁嘆場が、そのまま岡田の動機と行動を分かりやすく説明し、収斂させすぎたり、東横社長を感動させる美談となって会社を救ったりと、無理な形で本筋に絡みすぎて、なんともチグハグで湿っぽい展開になっていくのだ。
黒木瞳演ずる岡田の妻も、中途半端に現代的で、かといって添え物の域は出ず、何とも座りが悪い。
この辺り、笠原の仕事で言えば、金貸し、いじめ自殺、ホモ関係も当然事のごとき、男臭い艦内生活を活写しながら、沖田裕之の軍楽隊員と三原順子の恋愛話のパートがリアリティ無くちぐはぐだった『日本海大海戦 海ゆかば』や、政財界の癒着にチンピラ総会屋が切り込むハードな展開が、黒幕の近親相姦話の愁嘆場で尻すぼみのように終わってしまう『暴力金脈』の失敗を思い出す。これらはそれぞれ、現在進行形のタブーに触れた時の実録路線の限界や、男臭いハードなドラマが時の観客の趨勢に噛みあわなくなった故の迷いが生んだものだし、このドラマにしろ、現在の目から観れば、前半の猥雑なリアリズムで描く群像劇の線で押し切った方が成功もし、きっちり視聴者を納得させることも出来たのではないかと思えるのだが、やはり笠原も東映も中途半端に自信を失い、また時代を見失っていたのだろう。それとも『二百三高地』のラストシーンのごとく、「泣かせなアカンで!」と、岡田茂本人の鶴の一声(『昭和の劇』参照)が出てしまったとか...



事情は色々想像できるものの、あまりにも魅力的な素材、そして前半の意外な調子の良さがあっただけに、何とも残念さが残る一作だった。