自分の問題に他人を従属させようとする、正義の顔をした図々しさ

中上健次が、実は同和利権で太った実家の潤沢な仕送りを受けていた…なんて揶揄は、本当は揶揄にさえなっていない薄っぺらでつまらないものだ。彼が、上京してモラトリアムしていた戦後の子だったことは初期短編で自分で書いているテーマそのものだし、土着的な共同体の桎梏に苦しみながらも、それが彼自身の根にもなっていて、実家や実父の土建業者による高度成長期の開発で、それか失われていくパラドックスまで長編で書き継がれている。本気で批判するなら、せめて作品くらいちゃんと読めよと思う。

問題のある父親を結局は好きな向田邦子のエッセイの呪いのせいで、毒親を持った女性の書き手は云々なんてのも、自分と他人の区別がついていない甘えたヤツの情けない言いがかりだろう。彼女は彼女、あなたはあなたにとって切実なことを書けばいいんだ。自分の問題に他人を従属させようとする歪んだ権力欲は、はっきり退けたい。