色川武大「麻薬について」より

「私たちが日を送ってきた過去の中で、実に多くの人たちが意味なく、薬に身体を毒されていった。薬に毒されながら、しかしある意味でそれを必要としていたわずかな数の人も居た。行跡でそれを示した人も居る。仕事の仕上りでなく、外見にはしかと見えないが、本人のそのときなりのとことんの判断でそうせざるをえなかったらしき人も居る。いずれにしてもわずかな人だ。(…)
外見はかくのごときである。禁止すべきが当然であり、法治国であるから、法で禁じられたことをやって罰せられるのもこれまた当然である。
そのことに私は毫も不服を抱いているわけではない。
しかしまた、ここがややこしいが、かつて薬を使っていた私の友人知人を、軽蔑もしていない。(…)
罪人は、彼等、彼女等で、それは動かしようがないが、法でとらえられない部分について、せめて、心くばりだけでもする必要がある」
色川武大「麻薬について」

政治と文学の関係というのは、こういうことだと思う。