私的ベストテンとご挨拶

bakuhatugoro2009-12-30

元線引き屋の友人たちとやっている、年末恒例今年の私的オールジャンルベストテン。

葦原骸吉君のベストテン
http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20091231
奈落一騎君のベストテン
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1372944329&owner_id=155702&comment_count=8
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1372945922&owner_id=155702&org_id=1372944329

それぞれについてのコメントは、既に過去の日記で詳述しているので、そちらをご参照いただけると幸いです。

1.キミハブレイク 辰吉丈一郎特集
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090318

2.この世界の片隅に
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090507
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090514

3.グラン・トリノ
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090502

4.サマーウォーズ
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090814

5.関の弥太ッペ
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090906

6.ありふれた奇跡
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090324

7.JOHNNY TOO BAD 内田裕也
8.内田裕也 俺は最低な奴さ
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20091119

9.佐々井秀嶺 帰国講演会
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090609

10.マイマイ新子と千年の魔法
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20091208

次点 星を作った男 阿久悠とその時代
戦前世代でも戦後世代でもない、阿久悠の「根無し草」性と、還るべき処を持たない者故の熱さ、ロマンへの没入を指摘したのはさすが。
旧い日本から旅立った阿久悠は、しかし豊かさが達成され、人々が個的な気分と雰囲気の中にセンスを収斂させてしまうと役割を失い、80年代以降は晩年まで苦闘が続く。
しかし、そうした「現在」もまた黄昏の気配を漂わせ始めた時、彼の熱とロマンはどう再評価されていくのか。
重松清は巧みだし、視点の置き方も卒がないけれど、その辺り、最終的な自身の立場が不明瞭。だから、バランスが良い代わりに生々しい現在への問いかけとはならず、読み手を揺さぶらない。そこが残念で次点とした。
参考http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20090911



順位以上に、『グラン・トリノ』と『サマーウォーズ』は、目下の自分のテーマと重なるところが多大で、いろいろ考えるきっかけを貰い、勇気づけられもした。
この2作、前者はアメリカ(を背負った自身の映画の)暴力の贖罪と否定であるとか、後者は田舎や家族の排他的な部分を描かない楽天性といった部分での議論が起こったり、注目を集めた分、賛否の別れ方も激しかった。
この二作に拒否感を持った人の直感は、ある意味鋭かったと思う。
ウォルトじいさんも、栄おばあちゃんも、自分たちの正義、権威、共同体が持つ、抑圧性、暴力性といったものを見つめ、自覚し、反省しようとしながらも、最終的にはその責任ごと引き受けることをやめない。自分たちの背中を見せ、徒手空拳の若者を守り、導き、後の世代に影響を及ぼそうとすること、父であり母であろうとすることを決して辞めない。
彼らのそうした姿勢と、それを受け取る若者が肯定的に描かれる両作品に、それが優しく行き届いているからこそ、巧妙に回収されている(更に、最後は死によって呪いをかけられる)と感じて反発しているのだと思う。
そのこと自体はいい。今年はベストテンに並べた他の作品も含め、過去の総決算(或いは、その参照と反省の中で未来を探す)的な作品に、心を動かされるものが多かったけれど、それは結論ではなく、守るものと変えていくべきものを丁寧に考えていく作業の始りでしかない。
ただ、現在のように、誰にとっても今後が見えにくい時代の変動期は、冷静、臨機応変に目の前の事実を受け止めることが大切なのと同時に、それを追いかけることに囚われ過ぎると、自分の脈絡を失い、根なし草になってしまう。大きな流れから距離をとり、考えるための「自分」を失ってしまう。昨今特に目立つ、無責任に不安な人々の足場を否定、破壊し、先へ先へと煽ろうとするような言説には、強い反発を感じる。
だからこそ、ただ盲信するのではなく、参照し自分の足場にするための歴史的な正義や権威への意識は、やはり重要だと思うし、それをただ外から批判するだけではなく、負も込みで提示し、引き受けていく覚悟と勇気を、僕は美しい思うし、強い憧れを感じた。

ただ、僕自身の中には、彼らのように、濃厚な時間の積み重ねに裏付けられた、強い信念と実感があるわけじゃないのが辛いところで…
バブルと消費個人主義がはしごを外された中、質実な庶民的美観を見つめなおすことを、近年一方のテーマにしてきたものの、それが絵に描いた餅では仕方なく、また形骸化した共同体の空気に依存したまま、意識だけは個人のつもりだから背負おうとはしない(だから前向きな懐疑もない)、結果的に長いものに巻かれる無責任や、自分一個の保身の正当化に引き籠る同世代、年長世代に対しては「お前ら、一度梯子を外されて自立した方がいい」と苛立ちを感じたりで、なかなか力点の置き方が定まらない。
そうした事情で、執筆の仕事の方では、(出版不況云々よりも、自分の根本的な指針の立て方において)正直、過去最大の迷いと試練の年だった。それだけに、こうした作品に出会えたことは、本当に嬉しかったし、多くの刺激とヒントを受け取った。

新雑誌発行の遅延につぐ遅延で、ご協力いただいているみなさんには大変なご心配とご迷惑をおかけしました。
とにもかくにも、この場で一言お詫びを。
そして、何卒お見限りなく。
来年もよろしくお願いいたします。

よいお年を。

グラン・トリノ [DVD]

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サマーウォーズ [DVD]

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星をつくった男 阿久悠と、その時代

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