マンガの作風と連載ペースについて

『一ノ瀬家の大罪』面白いし好きのだけれど、ワンエピソードの解決が駆け足なのがちょっと気になっている。家族全員のエピソードを何周もしながら、各々の事情や関係を多面的、重層的に深めていくのだろうと想像しているけれど、週刊連載の事情から毎回盛り上げる必要があって、描写不足にならざるを得ないのではないかと。
今、紡木たく『瞬きもせず』を読み返しているのだけれど、1巻収録のエピソードは、当初月刊連載3号分で完結していた。高校の新入生の2人が、告白をきっかけに付き合い始めて、ウブで不器用な2人は、互いの自信の無さゆえの照れやそっけなさを誤解して疎遠になりかけるが、ふと気持ちが通じて無事に恋人に、というただそれだけの話。そこに、家族を恥ずかしく思う年頃の気持ちや、それに付随する後ろめたさ、友達の悪気の無い噂を気にし過ぎてしまう苦しさなどが断片として散りばめられながら、まっさらな経験ゆえの胸苦しいくらい純度の高い時間が主観でゆっくりと描かれる。これは、一回のページ数をたっぷり取れる月刊誌のペースだからこそ可能だった作風だと思うし、そんなじっくりと密度の高い個別の時間を描く作品に、情報の流れがだけが早すぎる今、また出会ってみたい。