Theピーズ『'09初夏盤』『3連ノリタね』『ゲロ犬ボーズ』『アル中』

夏になると、無性にロックが聴きたくなる。
僕は年齢や時期によって、聴く音楽がかなりガラっと変わる方なのだが(近年は、プライベートでは映画のサントラや歌謡曲中心)、やっぱり一番根っこには6,70年代のロックがあって、夏になるとざっくりしたギターの、シンプルでガツンと抜けのいいロックが聴きたくなる。
それも、昔から何度も聴いてるのだけじゃなくて、新鮮でピチピチしたのが聴きたい。
ところが、いろいろ探してもなかなかしっくりこない。


「昔は良かった」とか、そういうことでもなくて、むしろ今の方が音が好みのバンドは多い。
僕がロックを聴き始めた80年代は、ストレートに自分を出すのは恥ずかしいし、ロックは等身大じゃなくて遠くの憧れだったから、みんな構えすぎて表現がちまちま屈折してたり、逆に必要以上に暴力やスキャンダルだけを強調したり、背伸びして成熟や洗練を目的化してしまったりといった、持って回ったことになりがちだった。
だから、衝動や感情をストレートに表現するシンプルなロックが好きな自分としては、衒いなくそれをやってるかっこいいバンドが多くて楽しいはずなんだけど、本当にしっくりくるものとなると難しい。
音楽って、どうしても官能と快楽が真ん中にある表現だから、基本的にやってる方も聴いてる方も無邪気というか、どういう方向の個性であれ「素」に対する懐疑とか恥じらいが欠けがちなので、どうしてもそこがしっくり来ないし、おっさんとしては疲れてしまう。
いつまでも若ぶってるようなのもしんどいし、当たり前に疲れや諦めも知っていて、尚且つ趣味性に完結しすぎていない生々しさも残してる、そういうギターロックが聴きたい。


それで、この頃は1日中、最近出たtheピーズのマキシばかり聴いている。
6月に『'09初夏盤』という4曲入りのが出て(いつのまにかインディーズになってる。契約切られるほど売れてないわけでもないだろうから、意識的に選んだのかな)、それで久しぶりにHPを見たら、ライブとHPオンリーで他にも3枚ほど自主制作してたみたいなので、まとめて注文した。
ピーズはずっと好きなバンドだけど、初期の頃はこまっしゃくれたガキが他人の揚げ足とっていい気になってるような臭みも感じていた。本格的に好きになったのは、そういう姿勢で結局あまり売れなくて、ヘロヘロな演奏で身辺5メートル以内の酒とか女とかセックスなどについてのしょっぱい身辺雑記だけを歌うようになってから。
そして、本当の意味で自分にとって唯一無二のバンドになったのは復活後。はるは、諦念や疲労感ばかり歌う自分たちの聴き手が「目が死んだ奴」ばかりで、それ以上表現が広がっていかない「蛸の足食い状態」に煮詰まって、一度は音楽をやめ飲食業に就いた。
そこでの暮らしぶりがどういうものだったのか僕らにはわからないが、ともかく数年後活動再開した時のピーズには、「とにかく自分たちはバンドをやっていくしかない」という、今までとは違う覚悟のようなものが感じられた。
半端に目端が利いたりセンシティブだったりして、物事をシニカルに突き放してため息をついていたガキっぽさが、ともかく今ここで自分が生き延びることに必死になっているおっさんのあがきへと変化していることが、彼らの姿勢に、そして何より楽曲の変化として感じられた。
復活盤『theピーズ』は、基本的にそれ以前の数枚の延長で、グライダーのように惰性で低空飛行する自分を淡々と見つめる内容だったが、より真摯になった分だんだん透明な光が射してきてるようなヤバさも感じて「歳食ってるんだから、現状維持を目標にしてるとどんどん沈んじゃうぞ!」という内容のレビューを『音楽誌が書かないJポップ批評』に書いた。すると、読んでくれたわけでもないんだろうけど、次の『アンチグライダー』は、そういう自分を必死に駆り立てようとしているかの、同世代にとってはかなりグッとくる内容だった(特に「ギア」は、復活後の彼らを代表する名曲だと思う)。
そして、どうやら活動も軌道に乗り、次の『赤羽39』は「悪くはないが、いつもの彼ら」という、ちょっと物足りない印象で、「共感はできるけれど、自分や取り巻く現状に「足りないもの」への苛立ちや、何かを切り開く時の孤独な戦いの伴走者たり得ない」気がして、なんとなく少し遠ざかっていた。


そして今回の一連のマキシ。
聴き手に背景がまったくわからないプライベートな片言を、飛躍しまくった行間で並べてニュアンスだけ読み取らせるというのが、最近の彼らの詞の傾向だったが、最早それが酔っ払いのたわ言レベルに、まったく読み取り不能な域に達してきている。いくらなんでも翻訳が無さ過ぎというか、ちょっと緊張感足りないんじゃないかとも思っていたが、それが不思議と今回は悪くない。
ラフだけど年季を感じさせる、の太くて自由な演奏と、ザラッとヘビーで粒立った音(アビさんの手製のアンプから、外音を拾ってる影響もあるのか…)の印象も大きいと思うが、自分の生理に徹して、説明したり意味を集約したりしない「投げ出し方に潔さを感じるというのか、今まで「弛緩」だと感じていたものが、素を平気で投げ出せる爽快さとか安定感としてプラスに響く。
まったく「継続は力」だなと、ちょっと感動する。

何だか自由が アタマに悪そうだ
ねむー キツー 無駄に汚れたな
待ってもいいが もうそこじゃない

愛されてこ アソばれてこ 愛してこう
(3連休)

バカにアツいね
風邪ひかないね
バカがクドいね
うれしーね

たまに楽しーね
気のせいでいーね
本当にそーだ
やさしーね
(でいーね)

焦りとか退屈とか諦めとか、でも結構楽しいとか、整理しないままなのがいい。
普段、無神経にポジティブだったり、逆にカマトトぶった反省や分析ばかり延々やってるような鬱陶しいものに包囲されていると、尚更そう思う。
「私はわかっている」という御託には、却ってそいつの駄目さと性悪さを感じる。
逆に駄目やわがままも、変に整えたりせずに思い切り良く表現されていると、そいつを駄目とは思わない。
とにかく、ここのところのピーズは、しっくり来る上に抜けがいい。
そして、根っこのところで実は前向き。
爆音で聴きながら、車で海にでも出かけたい。

’09初夏盤

’09初夏盤


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