百姓! 田んぼの真ん中行って耕耘機でも乗ってろ!!(追悼 山田辰夫)

bakuhatugoro2009-07-28


このところ本当に訃報続きで、たとえ特別な思い入れがなくても、顔や作品をよく見知った人が次々にいなくなるのは寂しいものだけど、今日ばかりは本当に哀しい。
つい先日、久しぶりにDVDで「狂い咲きサンダーロード」観返して、ボロボロの体をバイクに縛りつけ、阿蘇山の向こうに消えていく山田辰夫(以下山辰)に、「翼なき野郎ども」がかぶさるラストシーンに、今更ながらにシビレたばかりだった。
10代ではじめて観たころは、日々暴力に囲まれてた学生時代がまだ生々しかったし、進学も就職もせず、自分自身の今後が内心不安でたまらなかったから、映画の安っぽさや山辰の半ば自虐的にさえ見える暴走を痛々しくも感じていたけど、今見ると逆に、ひたすら突っ走りきることが、眩しく、愛おしく、カッコイイとしか感じない。
若い時なんて、自分の中に自信や保証なんか何もないんだから、逆に言えば失う物が無いヤツほど強い。
どんなに不恰好だろうと、技術的に稚拙だろうと、とにかく突き抜けてるものって恰好いいし、最終的に表現って、そんなふうに気持ちを揺さぶるものでさえあればいい(それこそ、本当はとんでもなく難しいことなのだが)。半端に経験だけ重ねて、自縄自縛気味のおっさんに、そんな一方の真実を思い出させる鮮烈さだった。
今観ても、映画の中の山辰は最高にカッコよかったし、映画はまごうことなき傑作だった。


「狂い咲き〜」と同じくらい、「すかんぴんウォーク」での山辰も大好きだった。
歌手を目指し、東京湾を泳いで広島から上京してきた吉川晃司が、東京ではじめて出会った先輩。
体格も風貌も貧相で、必死に虚勢を張っていても、根は朴訥で小心な田舎者。ガタイも性格もダイナミックな吉川に、あっという間に置いていかれてしまう。蛙みたいなあの声で、すでに懐メロだったジュリーの「危険な二人」を歌う彼は、吉川のスケールと瑞瑞しさを引き立てるには恰好の当て馬だった。
ところが、吉川が抜けたアマチュアバンドの代役で野次を浴びるうち、開き直って毒づき返した悪態がウケて、アジテーター芸人としての才能が開花。吉川のアマチュア時代のスキャンダル暴露ネタで逆にのし上がっていく。
苦味があるから、逆に甘酸っぱさも純化するような、最高の青春映画だった(未DVD化!)。


「狂い咲き〜」でも「すかんぴん〜」でも、彼は悪態の中で「百姓!」を連発するのだが、これが彼自身の貧相なカッペ面と蛙声で自虐的でもあり、同時にファニーでもあって、やたらインパクトがあった。当時はそんな風に冷静に分析していたわけじゃないけれど、やはり背伸びしまくった冴えないカッペだったはずの僕も、それがうつって「百姓!」が口癖になってしまった時期があった。
ねじれゆえのやるせなさと、それを吹っ切っていく必死の虚勢。とにかく、こんなに素で親しみ(所謂「ダチ感覚」ってヤツ)を感じる役者なんて、他に何人もいない。わざわざ出演作を追いかけるという感じじゃないのだけれど、何てこと無いドラマなんかでも、彼が出てると嬉しくなった。
昨今は映画でも何でも、やたら物分りが良すぎる分逆に、こういうねじれた「面倒くささ」に、フィクションの中にさえ場所が無い気がする(中でも山辰は、それを「可愛い」と感じさせる稀有なキャラクターの持ち主だった)。
とにかく、「長らくお世話になりました〜」っと浮世にケツまくるには、あんまり早すぎたよ、仁さん!