週末はシモキタで『資金源強奪』!

bakuhatugoro2007-06-01



シネマアートン下北沢でやってる『東映70年代傑作選』で、明日から深作欣二のギャングアクション『資金源強奪』がかかります。
http://www.cinekita.co.jp/schedule.html#toei
http://www.cinekita.co.jp/schedule.html


あの『いつギラ』の原型的な内容で、かつ10倍面白いこの映画を自分は大好きで、このブログや仕事の原稿でも何度か取りあげてきましたが、この隠れた大傑作(現在に至るまで一度もソフト化されていない)をこの機会に、一人でも多くの方にスクリーンで観ていただけるよう勝手に応援すべく、今回は本作をソウルムービーに挙げる元線引き屋の畏友、奈落一騎君に推薦文を一筆お願いしました。


『資金源強奪』讃
暴力団とサツの盲点ついて、3億5千万の賭場荒し―
奈落一騎


仁義なき戦い』シリーズの中で、監督・深作欣二が、もっとも共感を寄せ、自己を投影したキャラクターは、ヤクザ社会の仁義、シキタリを嘲笑い、


「ワシらうまいもん喰うてよ、まぶいスケ抱くために生まれてきとるんじゃないの。それも銭がなけりゃ、できやせんので。そうじゃけん、銭に体張ろう言うンが、どこが悪いの。おゥ?」


の台詞でお馴染みの大友勝利だという。


大友とは、徹底的に欲望に忠実で、フリーダムな魂を持った男である。


深作自身、任侠映画形式主義、建前主義に納得できないかったからこそ、実録路線の『仁義なき戦い』を撮ったのだし、またプライベートでも、夜飲みに行くときはいつでも喧嘩出来るように特殊警棒を持ち歩いていたり、監督が常用していた?栄養ドリンク?と称するものを渡瀬恒彦が一口貰って飲んだところ血反吐を吐いた(あの渡瀬がである)、といった数々の強烈なエピソードを持っている男だ。


そんなアプレで、アナーキーで、アグレッシブな暴れん坊・深作が大友に感情移入するのも当然だろう。


だが、映画の中の大友勝利が、千葉真一のノリノリの演技もあって、極めつけの下品で粗暴なヨゴレであるのに対し、実際の深作は赤い革ジャンや、黒いマントを粋に着こなした、涼しい二枚目なのである(どちらかと言えば、外見イメージは安藤昇に近い)。


もし、大友勝利が涼しい二枚目で、さらに知能犯(もちろん、暴力は標準装備)だったら!? 


――という贅沢な夢をスクリーンに叩きつけたのが、この『資金源強奪』という、一匹狼のヤクザが暴力団の賭場の上がりを強奪するさまを描いた映画なのである。つまり、より深作の実像に近い、『実録・深作欣二』とでも言うべき映画なのだ。


主演が北大路欣也なことで二枚目度もアップ。しかも、北大路の皮をかぶった深作というか、中身は深作そのものだから、北大路が本質的に持っている硬い生真面目さみたいなものが本作では完全にかき消され、彼の甘い感じだけがより効果を生んでいる。


その北大路が、長い付き合いの自分の情婦(太地喜和子)と別れ際に交わす会話こそが、『資金源強奪』のテーマをもっとも体現しているので、少々長いが、以下に引用しよう。


北大路、淡々と旅行鞄に札束を詰めながら、
「これでお別れやな。気にせんでええ。裏切ったのはお前だけやない。ワイかて、金持って一人で外国に飛ぶ気でいたんや」
「えっ!?」
「今日、他人名義の偽造旅券受け取ることになってる」
「嘘や!?」
「嘘やない。お前と九州行ぬ言うたのも、羽田組の連中ごまかすための口実や」
「そしたら、あんたが言うたことみんな……、昔のまんまの気持ちや言うのも……」
「静子。親子でも夫婦でも、人間みんな一人ぼっちや。信用できるのは自分だけやで。これがワイの八年間のムショ土産や。達者でな」


この主人公のクールな台詞、実際に深作自身が愛人たち、……松坂慶子や荻野目慶子に似たようなことは言ってるんだろなぁと想像することは容易なことだ。


そして、このやり取りのあと北大路は颯爽と去り、取り残された太地喜和子は呆然としながら、「……酷い人や。なんぼ男やいうたかて、そんな身勝手通る思ってんのか」と呟くのだが、それが通ってしまうのが『資金源強奪』という映画の肝であり、超男性・深作という人間の魅力なのである。


そう、この映画には深作の危険思想が三段構えで、余すところなく描かれてる。


それは、まず「何であれ、人間はやりたいことをやればいい」という思想。そして、「やりたいことをやったとき、死ぬ奴もいるが、そんなことはどうってことない」という思想。そしてその上で、「やりたいことをやっても、俺だけは死なない」という思想である。


『資金源強奪』は、この深作イズムだけで貫き通されている映画だ。とくに、上に挙げた深作思想の3番目は、他の深作映画でもなかなか見られないものである。そういう意味では、脚本の笠原和夫の色も強い『仁義なき戦い』よりも、より深作らしい映画とも言えよう。


……これは余談だが、究極の甘えん坊・石川力夫を描いた『仁義の墓場』が陰惨な映画になり、1ミリも甘えのない『資金源強奪』が爽やかな映画になるところが、不思議な感じがしなくもないが、まぁそういうもんだろうなぁとも思う。閑話休題


とりあえず『資金源強奪』を、似たような題材を扱った他の映画との比較で言えば、
『スティング』の100倍男らしく、
『チンピラ』の100倍カッコよく、
新幹線大爆破』の100倍痛快で、
太陽を盗んだ男』の100倍ワガママ
な映画ということになる。


深作の最高傑作のうちの一つであり、ということは日本映画で一番面白い、いや世界の映画の中でも一番面白い映画の中の一本ということだ。


もし万が一、この映画を観てツマランと言う人がいたら……、お代は……、お代は返さんが、そんな奴は友達じゃないことは確かだ。とにかく、観てくれ。
言えることは、ただそれだけである。


付記1
まぁ、女の人は、この映画、嫌だって言う人もいるでしょうね。でも、男がどんな夢を持っているかはよ〜くわかりますよ。誰だって男は、この映画の主人公のように生きたいと思ってるんです。キンタマがついてる奴なら。


付記2
『資金源強奪』の梅宮辰夫は、不良番長がそのまま悪徳刑事になったような、愉快でおいしいC調野郎です。




文中の特性ドリンクや特殊警棒の話は、我々がとある取材中関係者から伺ったウケ話で、真偽は保証の限りではないけれど、撮影中どの出演者よりも精力的に動き、誰よりも多く呑んだという深作欣二の底抜けに健康なキャラクターや作品カラーと響きあって、何とも愉快な気持ちになる大好きなエピソード。
『資金源〜』、同じく深作の『暴走パニック 大激突』や中島貞夫狂った野獣』あたりのマシンアクション路線と並べられ、同時期のB級アクションの佳作として語られることが多いけど、闇雲な量産による実録路線の行き詰まりの中で、とにかく何でもやってみようやってな勢い勝負、行き当たりばったりのチグハグさや冗長な一本調子も覗く他の2作に対して、展開の妙と疾走感が相乗作用でラストまで高まりっぱなしな本作は、完成度とパワーを奇跡的なバランスで共に備えた真の大傑作。東映娯楽映画のアルチザン高田宏治最高の仕事の1つでもある。
しかも、この時期の東映独特のマチズモ的泥臭さや、破滅する男の情念といったものは抑え目で、ひたすら陽性で愉快、かつクールな作品カラーは、北大路の青年っぽい甘くクールなムードも相まって、女性陣にも案外抵抗なく楽しめるんじゃないかと思うのだが。


ともかく、土日の予定が決まらない方は、迷わず下北沢へGO!