代々木ブルース

bakuhatugoro2006-05-10



mixi工藤栄一コミュで知り合った廣田正興監督のデビュー作『代々木ブルース』の試写を観てきた。
監督曰く、70年代日テレ火曜9時のアクションドラマの最終回をイメージして作られた「男のファンタジー(ソフトアクション、ハートボイルド)60分!昭和探偵ドラマの拡大解釈ムービーに混濁する妄想と迷走!」とのことだけれど、思ったよりオマージュ臭は強くなくて、とにかくストーリーの破綻も省みず、撮りたい絵とシーンをひたすらぶち込みまくった、新人監督の気負いとアイディアがギュウギュウにつまった勢いと初々しさが弾けている。
ただ、日テレアクションのような「泥臭さ」はほとんどなくて、逆光を多用した工藤栄一監督風の耽美な陰影のある絵が、ブルージーに沈むんじゃなくポップに躍動しまくる、『ヨコハマBJブルース』と『殺しの烙印』を合わせて「濱マイク」で割ったような様な、どちらかというと「架空」でナンセンスな手触り。
ザ・シロップの松石ゲルによる、ヤマタケをガレージ感で加速したような劇伴もカッコイイ。
主演の鈴木一真氏は、『ダブルス』の時より全然良かった。



気ままなその日暮らしをしてるチンピラ探偵2人組が、突然アニキや女に消えられて慌てたり、人気劇団が女性ファン相手に副業で始めた水商売にのめり込んで本職になっちゃったりと、監督自身の青春が投影されていると思しき設定も散りばめられていて、だらだらと引き延ばしてきた青春の総括を迫られる主人公が右往左往するストーリーは、ナンバー1に固執する殺し屋のジタバタを描いて日活アクションの前提のオカシサをメタに面白がった『殺しの烙印』を思わせる。が、個人的な好みを言えば、青春アクションもののフォーマットに思い切り律儀な話も一本撮ってもらいたいなと思った。『殺しの烙印』にしても、膨大な日活アクションの積み重ねの上に咲いたあだ花なわけで、そういう「定番」の説得力が失われている現在、「文系の青春」の内側の楽屋オチよりも、その外側にある現実に目を凝らし、設定を本気で掘り下げることから生々しさを生み出して欲しいと思った。「現在」の土台の上に、1からフォーマットを作り直すつもりで。
自分の欲望や妄想を突き詰めていった揚げ句、現実とどういう具体的な軋轢が生じるのかを追求していくことから、「青春」が何だったのかも、その先に何と戦うのかも見えてくるはずだから。
演出も演技も本気でハイクオリティー、パワー全開なだけに尚更、それがフィティッシュに閉じちゃうのは勿体無いと思った。デカくて広いところを目指そうよ!



と、今後への期待と提言をガンガン押し付け、応えてもらうためにも、「男の映画」「男のドラマ」を愛するみなさん、この才気漲る監督への期待票込みで、全国公開の折には是非劇場で観ましょう。
躍動する抜けのいい画面を眺めるだけでも、ちょっと嬉しくなってくるはず。




●東京では7月から渋谷シネマアンジェリカhttp://www.welcome-shibuya.co.jp/cinema/society.htm で先行公開されるそうです。