『渋谷物語』


信用できる筋から複数芳しくない評判を聞いていたので、「ビデオ出てからにすっか〜」とヘタレかけていたんだが、それだと尚更観るのに気合入らなそうなので、企画への献金のつもりで萎える心に鞭打って新宿トーアへ。


が、残念ながら概ね評判どおり、焦点の定まらない総集編みたいだなって感想。
冒頭に焼け跡闇市持ってきて、予科練崩れを愚連隊に襲わせたり、背景説明をモノクロスチールで処理したり、「狙われる者より狙われる者が云々」ってセリフを挟んでみたり、随分と『仁義なき戦い』を意識してるんだが、かといって戦争をはさんだ世代の溝が掘り下げて描写されるわけでもなく、ストーリー追えなくてもアナーキーなスピード感やシビレるセリフで酩酊させちゃうような勢いがあるわけでなく、血の抗争を「ズッコケ喜劇」として捉えるような個性的なアングルがあるわけでもない。
反動でアナーキー化した特攻崩れの愚連隊が、落ち着き行く戦後の中で財界人の工作と腹芸に敗れていく、という「愛すべき悪いヤツへの挽歌」を一応中心に据えてるっぽくはあるけど、正直それも「申し訳」程度にしか映らず。
本当にただ茫洋とエピソードを詰め込み、詰め込みすぎて焦点が見えなくなってる上(しかも、半端に律儀でおとなしい演出。あんなギチギチの内容で、のんびり獅子脅しなんか撮ってる場合じゃないだろう!)、侠気とモダンなエピキュリアンぶり、そして底の抜けたような「怖さ」が溶け合った安藤昇の独特さを多面体として描くには、残念ながら村上弘明は単にぼさっとした善人が取ってつけたように眉間にしわ寄せてるふうにしか見えない(顔真似メイクだけは巧かったけど...)。


まさに、安藤組と入れ替わるように、本作最大の敵役である東急と共に「豊さのイメージとライフスイタイル」を売ることで渋谷に君臨した西部グループが時代の先端から退場しようとしている現在、昭和の前史を思い出すには絶妙のタイミングだったこともあり(今こそ平板に荒みゆく郊外の町々に安藤昇を民生委員として派遣し、「歌う桜祭り」を! なんて想像するのはちょっと楽しい・笑)、それだけにこの出来はまったく残念。
何より、他ならぬ安藤昇の映画に対して、細かい文句をぐちゃぐちゃ並べにゃならんのは心苦しい限り。


せめて、ご本人が現在の渋谷スクランブル交差点に登場するラスト、『血と命』でもかかってくれてたらなあ...



映画俳優安藤昇

映画俳優安藤昇