同居人が借りてきた『ゴーストワールド』http://gw.asmik-ace.co.jp/をビデオ観賞。

bakuhatugoro2004-10-21



ほとんど前知識無かったんだけど、いやあ、思わぬ収穫!


早速感想を書こうと思ったが、アマゾンでの「たこの水まくら」さんという方のレビューが、とても端的かつ秀逸で、俺もほとんど同感でもあるので、まずこちらを紹介したい。

ソーラ・バーチに感情移入するにはトウの立ちすぎた私。〜〜遠く霞みつ我が青い春・・・おっと、思わず一句詠んでしまいました。でもお蔭様でヒリヒリすることなく客観的に観ることが出来ました。

世の中に対し斜に構えた女子高校生たち2人の登場です。そのうちに「馬鹿やってらんないしぃ」(実際は言ってないよ)とかつての団塊世代のごとくレベッカはあっさり変節一抜けた。さて困りました。そんな器用に振舞えない(振舞いたくない)イーニドはどうなるか・・・



どうやら彼女のような青少年を擁護するのかと思ったらそういうわけでもないようです。感受性は鋭く世の中に違和感は持ってはいるもののさしたる信念もなく、プレゼン出来るような何かも持ち合わせていない。でもそんな中途半端な彼女にも未来は一瞬開きかけます。が、ところがどっこい手痛い仕打ちをしてくれます(人のふんどしで相撲をとるなかれ)。とにかくシーモア方面(X方面)にもレベッカ方面にもシフトできないイーニドの宙ぶらりん状態が痛々しいったらありません。これ、都市郊外の話であることは見逃せません。生存競争の一番の担い手、アメリ中産階級のもつ強迫観念抜きには語れない気がします。

そして行き場のない彼女は来るはずのない幽霊バスに乗って姿をくらましてしまいました。うっ・・シビア。


ただ、これだけを読むと、観てない人に、無力と無為に焦る若者による定番青春ものってふうに見えかねないから、ちょっと補足。
はてなやアマゾンの他のレビューを見ても、ちょっと背伸びした自己像を持ちたい繊細クンたちが無理やり感情移入しちゃってる場合が多いし、いわゆる専門学校系カブレアパレルギャルや不思議ちゃん、ゴズロリなんかになぞらえられてることが多いんだけど、主人公のイーニド(右の短髪黒髪の方です)は、いわゆるそうした自意識系少女じゃまったくない(ヤツは君たちほど弱くないよ。どのくらい違うかというと、武田百合子の「強さ」と、その天然に憧れる影の薄いカフェギャルくらい)。かといって、ただのヤンキーでもない。実際独特の時間の流れと快感原則を持った(けれど、「天然」ってほど一本調子じゃない程度にセンシティブな)、わがまま暢気でかつ好奇心旺盛な、フザケたオモロイダメギャルだ。


ギターとスポーツ、ナイキにハンバーガーばかりの同年代男子が退屈で、だけど浮いちゃってモテない現実はちょっと寂しい。
暇つぶしに、新聞に恋人募集の広告出してるオヤジをニセ電話で呼び出し、遠くで眺めて笑おうと思ったら、そのオヤジのマイナーポエットなダメ風情が何故か気になって、ストーカー。気弱で不器用、純朴なレコードオタクのオヤジが気に入って、友達になってしまう。


なまじ、ある種の感性は本物なので、何より自分のその場その場の関心や衝動に忠実に、あけすけな言動でやってるうちに、些細だが細々としたところでの周囲の人間や社会の平板さから、どんどん浮いていってしまう。
けれど、そんな自分の個性や立場に意識的なわけじゃないから、政治やプレゼンがまったくできず、第一そんな発想自体が全くないので、だんだん世間に右へ倣えしてうまく大人へとあがっていく悪友のレベッカともかみあわなくなっていく。
そんな寂しさや心細さもあって、ますますダメオヤジに肩入れし、恋人探ししてやろうとするが、実はそれなりに分を知って世間と折り合いをつけてもいるオヤジが、何となくフツーの女とうまく行き始めると、今度は嫉妬にかられたり。
こういうオヤジは、他人にちゃんと話を聞いてもらったこと自体が希少だから、打算や邪心が無くつきあいのいいイーニドを、本当にイイヤツだと思ってしまう。彼女の方も、確かに本当にオヤジを気に入ってるし好意も持ってるんだが、じゃあ本当にしょぼくれオヤジの彼女になって付き合い切る覚悟があるのかとなると...ってことで、結局勢いでコクって寝たはいいが、翌朝にはもう迷いはじめて、結局寂しいオヤジを振り回しひどく傷つけるだけの結果に。無邪気ってのは残酷だ。
そして本人も悪気のないままどんどん孤立し、あっちが煮詰まりゃこっちに甘えと、横へ横へとずれていくうちに...という展開。


退屈な多数と折り合うことも、諦念してオタクに割り切ることもできず、わけのわからないまま宙ぶらりん。だけど、意識できなくさせてる資質そのものが魅力であり、マヌケなグルグルが愛嬌にもなってるムズカシさ...
彼女の魅力への理解と、ラストのシビアな認識のさじ加減が絶妙で、このジャンルの定番名作といわれる『ひなぎく』や、それに『ハイフィディリティ』とかの最近乱造される男子版ダメオタクものに比べると全然自家撞着がなくて、思い入れや自己愛がしっかり相対化できてる。だからその分ちゃんと(欠点含め)魅力的なヒロインを造形できてるこの映画、0年代の青春映画の傑作と言って間違いないと思う。


最後に私事で恐縮だけど、とにかくイーニドが、現在幽霊バスでスペインあたりへ逃亡中の、某バブルガムナイト主催者にかぶりまくって仕方なかった(重ねた悪行や風体、ファッションや音楽の趣味まで! バズコックス!!)
おーい、生きてんのか? id:irma
取りあえずこの映画、関係者は必見だ(笑)


しかし、「何が出来るか、何者になれるのか」が自然に人生の課題としてセットされてる男子に比べ、「どこにはまれるか」が課題なんだが、受け皿もないのに夢やわがままを世に煽られ、しかしはじめから男ほどストイックに構えられない当世の女子ってのも、なかなか難しいところにいるよな、とは常々思うよ。


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