ここのところやってた「怪人図鑑」的ムック仕事の慰労を兼ねて

(といっても、俺はまだ思い切り残しちゃってるんだが。ゴメンナサイ!)、奈落一騎新居にて、奈落氏、榎本氏とビデオ上映会。
今日は、「実録外伝 大阪電撃作戦」「資金源強奪」「やくざの墓場 くちなしの花」の3本立て。


「大阪〜」http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD18459/は、松方さんと渡瀬恒彦の、東映実録路線で俺の最も好きな狂犬2人がコンビ組んで、丹波哲郎小林旭の大物コンビに挑み、つぶされていく話で、ネタ、パフォーマンス的には最高。
ただ、以前一度観ていたせいもあって、「仁義なき戦い」シリーズなど一連の笠原和夫脚本による作品群のように、ある時代を生きる人間達を、背景ごと掘り込んでいくような深みはなく、また中島貞夫の演出の(いつも通り)体力ありすぎて却ってメリハリなくなってしまう感じに、正直少しだけダレてしまった。


続く「資金源強奪」http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD18359/は、何故かずっとビデオ、DVD化されていなかった一本で、深夜、シネマラバンバ(邦画ラインナップの素敵な東京ローカルの映画番組)で2度ほどやった時見逃してしまい、ずっと観たかったんだけど、これは期待を大きく上回る傑作!深作欣二(ここでは「ふかさくきんじ」か...)の中で、個人的にはいちばん好きかもしれない。
やくざのヒットマンやって臭い飯を食ってきたチンピラ北大路欣也が、「もう2度と捕まらないため」に、ムショ仲間の室田、拓ボンと、足のつかない組の賭博収益の強奪を計画。
その後、分け前を巡って仲間割れする3人とやくざ、やくざに雇われた悪徳警官の梅宮辰夫の4つ巴、5つ巴のバトルが展開されるわけだが、やくざに脅されて裏切った情婦の大地喜和子に対し、ピンチを切り抜けた北大路が吐くセリフ

「気にせんでもええ。裏切ったんはお前だけやない。俺も端からお前をおいて一人で高飛びする計画だったんや。恋人でも夫婦でも、人間最後は一人、信じられるのは自分だけや。この言葉が、お前に最後にやれるプレゼントや」

の爽やかさとか、金を取り返したもののやくざに嵌められ、警察を首になり礼金を踏み倒された梅宮に、コンビを組んでの再強奪を持ちかける北大路のイイ神経。そして最終的に二人で金を奪い合い、死闘の果てに倒され死んだかに見えた梅宮が、ちゃっかり生きてて懐に金の一部を隠してたというナイスなオチ。
めずらしくアグレッシブな拓ボンの活躍が見れたのも良かった。
キレのいいアクションとズッコケ喜劇で、ボンクラどもの果てることなき死闘を描き、「やりたいことをやりきる」人間の馬鹿さ加減をシンプルに全肯定する深作の健康な骨太さが、本当にキモチいい。このノリ、60を過ぎて撮った「いつかギラギラする日http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20031205でもまったく変わってないから、根っから彼はこういう人だったんだろう。
通常ならば、若さの挫折と切なさに落としがちな話を、あくまでアナーキーに突き抜けきって納得させてしまうパワーと明るさにあてられ、「俺、軟弱になってるなあ...」と反省することしきりだった。


そしてラスト、「やくざの墓場 くちなしの花」http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD18595/。これも監督は深作なのだけど、こちらは完全に脚本笠原和夫のカラーで、これまた「資金源」の印象さえふっとんでしまうくらいの強烈な一本だった。
かつて追跡中のやくざを誤って射殺してしまって以来、署内で何となく部屋隅扱いになり鬱屈を溜めている刑事、渡哲也。
やくざの女梶芽衣子への同情から恋仲になったことがきっかけで、彼女の属する朝鮮人系やくざの梅宮辰夫と友情を結び、兄弟分の杯を交わしてしまう。
しかし、対立する組織と癒着する警察によって渡は自白剤を打たれ、自分しか知らない梅宮の居場所を喋らされて、そのために梅宮は逮捕、謀殺されてしまう。

「叔父貴さんを売ったのは、あんた?」
「叔父貴さんのオトシマエやあらへん、うちを裏切ったオトシマエや」
「ウチがまちごうてた、デカなんてヤクザより信用でけへん(脚本では「日本人は信用でけへん」だった)」

と、渡を撃つ梶芽衣子
腕を撃たれながらもピストルを奪い、強引梶を抱く渡。
「裏切ったのは事実や。もう言うことはない。好きなようにしてくれ」。
すると、黙ってペイ(ヘロイン)を打ちはじめる梶。

「13の時から体売って生きてきたんや。こうしてペイを打つのだけが楽しみやったんや。そんな女なんや、ウチは。男なんてナンボでも捨ててきた。男捨てるなんて平気や。松永にも、あんたにも、誰にも惚れてなんかいやへん」

と、過去を告白。

「うちは誰の女でもあらへん、西田組の女でもあらへん。朝鮮人でもあらへん、日本人でもあらへん、ハーフでもあらへん、ウチは魂になって飛んでゆくだけや」。

それを聞いた渡は感極まり、注射器を壊して梶を抱く。

「お前はワシの女や!」
「お前だけは裏切ってへん、その証拠を見せてやる」

と、警察への復讐を誓う渡。


戦前から戦後への無反省、なし崩しの移行の欺瞞の中で浮き上がった笠原自身が投影された主人公と(この時期の渡のウエットでデカダンなセクシーさがこれにばっちりはまった!)、日朝混血で行き場のないやくざの女梶芽衣子デラシネ同士のアナーキーな道行き。陽性で割り切りのいい深作にはない、情念と孤立の重さと、ディティールに密着し構造をとことん掘り下げていく「深さ」に圧倒された。
実録路線といえば、深作的なパフォーマティブな抜けのよさと猥雑さばかりが若いファンには評価されがちで、勿論それはとても大切なことなんだけど、一方で笠原脚本のディティール豊かで、かつ割り切れない深みの魔力を忘れてしまっては、唯のキッチュな悪趣味に閉じてしまうぞ(ま、それも決して嫌いじゃないんだが)とも思う。


観終わった後、「昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫」を読んでいたら、四方田犬彦の『ハイスクール1968』http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20040119で紹介されていた、後に山梨のパチンコ王となった早熟の詩人帷子耀が、当時「映画芸術」に「「仁義なき戦い」の中には在日が出てこない」という批評を寄せ、これに応えてこの脚本が書かれたという話が語られていて、どうしてもその文章が読みたくなって当時の映芸のBNに目を通したのだが何故か発見できない。
他誌である可能性もあるので、もしご存知の方がいらっしゃったら教えて下さい。


http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20040623
に続く。