件の中森コラムに触発され、

また『天ない』世代の同居人の影響もあって、矢沢あいNANAhttp://www.geocities.co.jp/AnimeComic/7712/
を最新刊まで通読。いやあ、面白い! 久しぶりに俄然盛り上がっています。

俺は、すでに自分の「色」や属性を決めてしまっている人の言葉や物語よりも、それ以前の、フラットな状態の、まだ言葉にならない、形にならない、だから世の中に「そういうもの」として場所を持たない欲求を抱えながら右往左往している人間の言葉や物語(例えば『青春の殺人者』や『ホットロード』のような)に興味があるし、そこに言葉を届かせたいとずっと思い続けている。

そういう意味で、確かに矢沢あいNANA』は、現在における紡木たく(というより『ホットロード』的なものか…)の継承者といって、間違いじゃ無いと思った。

弱く、未成熟で不安定な自分を抱えたまま、恋愛に揺さぶられ振り回される女子が、彼女たちの視点でしっかり捕まえられている。まさに「渦中」という感じで。しかも、彼女の場合、本人はそこをまっとうに潜り抜けた大人であって、足元がぐらついていない。すべてを冷静に見据えている、確信犯のプロフェッショナルだと思う。
紡木たくの時代より、さらに一個の人間としての「動機」がフラット、かつ不安定になっているからこそのドラマっていうのが、しっかり突き詰められている。あるいは、強い動機を持っている人間(ナナやレンのような)が持つエキセントリックさも、ちゃんと相対化されている。

個人の欲望に率直になることは、一方で人間関係の安定や、信頼と対立し、壊してしまう側面を持つ(同性同志の友情に、色恋沙汰が絡んだときなどに顕著なように…)。今の子は特に、率直さの歯止めになる「社会」を持たない分、自分の欲望に忙しく、友達に優しくしたり義理立てしたりしてられないってところがあって、無意識のままやさぐれたりもしがちなようにも見える。そんな、この時代独特の愚かさを愚かさのままに直視して、けれど愚かと知ったところでそれにこだわりすぎて捻くれたり、極端にシニカルになったりもしない。愛しみながら描く、夢(快楽)と現実(批評性)の絶妙なさじ加減、そして、安易なアーティスト上がりをしないプロ少女マンガ家、ストーリーテラーとしてのバランス感と腰の強さには、ただただ敬服。紡木のような、言葉にならないものを空気で分からせてしまう絵の力、感覚的な鋭さというのはないけれど、それを十全な認識とテクニックでカバーして余りある。67年生まれ、さすが年の功(失礼!)。時間は夢を裏切らない。

ファッションや音楽など、現代の若者風俗に淫した作風に、「むかつく」「イライラする」といった反応も、きっといっぱい出てるんだろうな。あるいは、ほとんどの読者は単純にそうした物語や登場人物に憧れているんだろうし。まさに『ホットロード』もそうだったわけで、それ自体が時代のリアルにシンクロし、熱をはらんでいる証拠だ。

ただ同時に、そうした盛り上がりにシンクロしつつ違和感を感じ、ここで刻んだ自分の現在が何だったのか、これからの状況の変転の中で静かに考え続けるような読者が、きっといるはずだと信じたい。
誰もが、楽になるために割りきってしまうようなことを、大切に暖め問い続けることこそ、表現者の仕事であるはずだから。
かつて矢沢あいも、そんなふうに『ホットロード』を読んだであろうように。