今のNHKは本当に凄い。

最近、どうもテリー伊藤が鬱陶しい。
この人には元々、「人間っていうのは猥雑でいい加減な生き物だから、細かいこと言ってても仕方がない、多少ズルくてもあつかましくても、根っこのバイタリティを肯定していれば、それでOK」っていう、哲学というか居直りみたいなものがあって、このヤクザな根っこがあるから、何やっててもギリギリ許せるってところがあった。ロンパーなルックス含めて、泥を舐めてる人間の貯金も感じる。
けれど、「そういうバイタリティに欠けた人間の不幸」っていうのがはっきりと浮かび上がる、今のような時勢になってくると、どうもいけない。
こういう彼だからこそ、この世相の変化をすばやく察知して、庶民派の人情家ぶりをアピールするのだが、そういう使い分けを臆面なくやれてしまうこと、それで誤魔化しおおせるとタカ括ってる気配が、逆に露骨に匂ってしまう。はしっこく生き延びるのはいいのだが、それは結局は(誰にとっても)自己都合でしかない。それが露になっても、最終的には「結局はそうなんだ」と居直れそうなこの人の隠し持った余裕が、庶民派ぶった処世の中に覗いてしまうと、持たざる者の気持ちを一気に冷めさせる。
これが、負の貯金が少ないのに、表面的なシニカルさと中途半端なヒューマニズムの折衷で擬似インテリ的な大衆に擦り寄る、爆笑問題あたりの芸風とセットになると、もう本当に最悪だ。
つまり、現在「サンジャポ」くらい、観ていて不愉快な番組も少ない(いや、他にもまだ色々あるけど…)。
業界人の擬似家族的ムードとシャレで、キツかったり貧乏臭かったりする世相を、受け入れ可能なネタにして視聴者を取り込むっていうのが、80年代以降のずうずうしい業界ノリを受け継いだこの番組のテイストで、観てる側が彼らとの距離を見ないでいたい程度に余裕があるうちはいいんだけど、今後はどうなるか。
持てる人間には持てる人間の矜持ってのが必要だし、庶民でもない人間が庶民ヅラするのは嫌らしい(大体、そんな貧乏臭い芸風見たくない)。
そこを曖昧にするために、庶民の欲を煽って共犯関係に持ち込むようなやり方はどうかと思うし(もっと言うとこういう人って、本当に状況がひっくり返ったら、率先して庶民に媚びて、自分が吊るされない為に誰かをスケープゴートにしそうな怖さも感じる)、やっぱり慎みって大切だよなと思う。


そんなサンジャポの調度ウラでやってる、NHKの『難問解決 ご近所の底力』って番組を見ていたのだが、今朝放送の内容には圧倒された。
http://www.nhk.or.jp/gokinjo/backnumber/090201.html
ひょう害に苦しむ、青森のりんご農家について取り上げていたのだが、語り口にいわゆるドキュメンタリーもの独特のしんどさがない情報バラエティー風の作りなので、平熱の気分で入っていける。
食料の自給率が大きな問題になっている昨今だけど、やはり第一次産業というのは年毎の出来高が自然に左右されすぎてリスクが高くて、なかなか新規参入者が増えにくい。
今回の番組では、ひょう害でりんごが型崩れしてしまい、味自体にはまったく問題がないのに、不良品として収穫のほとんどを始末してしまわなけらばならなくなった若いりんご農家を取り上げて、地元の組合やNPOを仲介にしたり、顧客への直売ルートを模索したり、当事者と番組が知恵を出し合って新たな流通ルートを開拓しようとする様子をドキュメントしていた。
通常の我々の感覚だと、やはりきれいな見た目になれてしまっているから、なかなかわざわざ型崩れしたりんごを買おうとはしない。しかし、りんご自体の品質が確かなものでさえあれば、値段を考えても結果的には消費者自身の利益になることなのだ。その辺りの理解を促す売り込み方の難しさも含め、消費者側に「自分たちが農家を守り育てる」という意識が育たなければこのやり方は立ち行かないことを自然に視聴者に悟らせるような、丁寧な見せ方がなされていた。
NHKと言えば、あの「ワーキングプア」シリーズをはじめ、格差や雇用の問題に対する継続的で腰の座った取り組みが印象が強いから(最近は、ほとんど毎日のようにこの辺りの報道番組が放送されていると思う)、こんなふうにNHKへの賛辞を語っていると、「派遣村の運動なんか見てると、あのクレイマー体質はいただけないと思いませんか?」なんて挑戦的な反応を受けることもある。
派遣村などの運動とNHKのスタンスは必ずしもイコールじゃないし、僕自身は保守的な人間だから、この間のエントリーでオバマの就任演説について書いたように、自分たちの理性を信じてひたすら前を目指すような人の在り方には、怖さや違和感を感じることが多い。
けれど、今日の番組をはじめ、最近のNHKのドキュメント番組というのは、事態の告発を目的化することなく、その後の僕ら自身の幸福を模索するような、地に足の付いたテイストが強い。
最近たまたま見ただけでも、限界集落を回る移動商店や医師の活動を取材しながら、彼らの存在自体が辛うじて地域の繋がりを支えている様子を伝えたり(その一方で、個人に出来ることの限界と彼らの負担の大きさもしっかり見せる)、地域に恒常的にフリマスペース的な場所を設置して、日用品や衣類などを吃驚するような安さで流通させたり、ゴミの分別を細かくする代わりに、そこで浮いた財源を商品券として配布して、住民がそれに楽しそうに参加している地方自治体の様子を紹介したりしていた。
単に経済的な貧しさだけではなく、それぞれがポツンポツンと孤立して暮らしている現在の状態の不安が、世の中の不安と閉塞感を生んでいる状況を正確に把握して、それを超えて人々が繋がる為の試みや、元気に貧しさを乗り切っていく生活スタイルのあり方を積極的に伝えていこうという意図を、NHKは明確に持っている気がする。そして、困難と希望への模索を同時に提示することが、単に現実逃避ではないエンタテイメントにすら成り得ている。


まあ、あまり前向きで正しいことにばかり共鳴しているのもちょっと恥ずかしいんだけど、惰性的な空騒ぎに終始する民放に退屈している方には、今のNHKはお薦めです。
あの目配りの細かさと素早さは、僕ら個人の取材では到底まねできないもので、これなら受信料も高くはないとさえ思わされます。


それはそうと『銭ゲバ』、ついにスポンサーがコカコーラ1社(!!)だけになっちゃったみたいですね。
でも、これはそれだけインパクトがあるってことの証左でもあるし、今年1番の話題作を敢えて支持するだけの太っ腹を見せれば、却って企業イメージを上げるチャンスだと思うんだけどなあ。
昨日の放送でも、金持ちのボンボンに向かって銭ゲバが言い放つ「あなた何も悪いことしてないもんね。する必要がないからさ」なんてシビれるセリフがあったし、打ち切りなんてことにならないことを切に望みます。