私的ベストテンとご挨拶(ちょっと修正)

毎年暮れに同業の友人たちとやってる、今年の私的ベストテン。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1032989930&owner_id=155702
http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/


例年よりは多少リアルタイム感があるかも。
といっても1は今年連載終了した後のまとめ読みだし、3も年をまたいだ深夜の再放送、2は去年の映画化作品をDVD観賞後原作に遡り、4も昨年暮れの阿部ちゃん結婚記念の再放送の時にたまたま録画して年初めにまとめて観たという具合。
各分野のプロパーにとっては本当に「何をいまさら」な私的すぎる並びだけど、同時に旧作も含めて、どれも僕が今こそ観られて欲しい、読まれて欲しいと思う作品ばかりです。
これから数日家を開けるので、取り合えず5位以降のコメントはまた後日。


1.赤灯えれじい きらたかし
「自由」や「可能性」に縛られ、野放図に視野を広げ情報に振り回されて、目の前の現在を大事に出来ない。
こういう傾向は現代人が抱える大きな宿亜の一つだけれど、加えて現在は、こうして膨らんだ欲望と生活が失われつつある予感に、内心多くの人が戦々恐々としはじめているように思う。
自分の裸の実力がどれ程のもので、取り囲む現実はどういうものか。その兼ね合いの中で自分が出来ること、やるべきことは何なのか。見合った望みはどれくらいか。そしてその上で尚、自分はどうしたいと思っているのか。
社会が流動的で、未来が不透明であるほど、それを掴まえることは難しいけれど、大きなうねりに煽られてみっともないことにならないためにも、今こそそれを見失わないよう己を吟味すべき時だと思う(時には答えを保留したまま、歩きながら考えることも恐れずに)。
こういう、当たり前のようでとても難しく、何よりも大切なことを思い出させてくれる、そして少しでもそうあるための勇気をくれるマンガでした。
これも今年復刊された、きらたかしの初期作品『少女暴走伝説 Fair』も、労働の現場や人間関係のディティールを丹念に描きこんだ赤灯同様、お互いの事情に共感し、あるいはその違いやライバル心や嫉妬を超えて仲間を作り、何かを成し遂げることの楽しさと難しさが、至極冷静ながら一貫して温かい視線で見つめられていて素晴らしかった。そしてその後の赤灯では、それを全編コメディで楽しく描けるところまで、作家、エンターテイナーとして成熟していった作者の道程が感じられたのも頼もしかった。


2.ワルボロ ゲッツ板谷
世の中の閉塞感に対する一時的で性急な悪あがきなのかもしれないが、最近の物を考えたい若者の言論や表現を見ていると、頭の良い(つもりの)人間たちが、そういうヤツラ同士だけで共有されるリクツや細かいつばぜり合いの応酬を、全世界だと錯覚しているような(あるいはごり押しするような)違和感を感じることが多い。そういう傾向自体は今に始まったことではないけれど、あまりにも雑音を無視しすぎているというのか。
社会を俯瞰しているつもりでいる彼らが、「頭の悪い人間たち」に囲まれて生きていくことを想像できていない、あるいは引き受けられていない故に、結果的に物凄く狭い机上の空論に終始していると感じられてしまう。
が、この小説はそういうものとまったく逆で、作品の世界、あるいは登場人物の視野が狭いのが凄くいい。
下品で、乱暴で、身内同士でやかましくて、そのくせ肝心なことを考えることからは逃げている、小さな世界の小さな人々への苛立ちと愛情。そこから外へ出て行く人間への憧れと、目の前の世界の中で目立ち、楽しみ、意地を通すことを選ぶ自分。
そうしたことが赤灯えれじい同様、深刻になりすぎず、あくまで楽しく描かれていく爽やかさにも、板谷さんの強さと成熟を感じた。


3.天元突破グレンラガン
自分の人生観の、ほとんど無意識の根本には、松本零士の「若者は星空を見上げて未来を目指す」「時間は夢を裏切らない 夢は時間を裏切ってはならない」的なロマンが拭いがたく刷り込まれているので、こういう男の成長物語には無条件に反応してしまう。
ただ、壁という壁を突破して道なき道を行くロマンを描く本作は、一方で夢の行方は不透明で、必ずしも正義や成功が約束されているわけではないこともしっかり描く。そういう意味で、生き延びるために信仰や法にすがって自らを律し、時に仲間を切り捨てるロシウ達のエピソードは重石として効いていた。
そして、個人的にシモン以上に感情移入できたのがキタン。ロシウの統治者としての辛い立場を認めながら、あくまで愚連隊としてできることをやる。自分の限界を引き受けた上で、自分らしく演じきる彼らグレン団の描き方には、良い意味での保守性を感じた。
そういう意味で、絶望したロシウをシモンがぶん殴って改心させるエピソードは、ちょっと謙虚さが足りない気がして残念だった。


4.結婚できない男
日本人は軽くて洒落たコメディが苦手と言われて久しいけれど、本作は掛け値なしのラブコメの傑作だと思う。というか「面白い」という以上に「好き」だなと自然に思えて、気楽に何度でも見返せる連ドラなんていつ以来だろうか。
世の中がバラバラになって、セルフデモンストレーションの苦手な、シャイで不器用な人程孤独になりがちな昨今だけど、こういう話はいわゆる恋愛好きなタイプの男女よりも、そうした人たちで描いた方がドラマもあるし愛せていい。
阿部ちゃんには「第2役所広司」的器用貧乏という偏見がずっとあったんだが、やや体を傾けながら猫背で歩き、長身なのにいつもハーフパンツを履く、偏屈で不器用でどこか子供っぽい建築家の表現には唸った。夏川結衣は、齢を重ねるほど魅力的になるなあ。
仕事帰りのレンタルビデオ屋やコンビニの店員の風体とか、独身貴族を気取ってる阿部ちゃんがしょっちゅう妹夫婦の家に夕飯食いに行ってたりとか、日常のディティールのクールで愛ある拾い方も秀逸。
個人的には、阿部ちゃんが隣人の国仲涼子の部屋を訪れた時、愛犬のボールを踏んづけて「ピー」って音が出る間抜けな描写がツボでした。


5.この世界の片隅に こうの史代


6.貸間あり 川島雄三


7.生きいそぎの記 藤本義一


8.時代劇は死なず! 春日太一集英社新書


9.イキのいい奴(CS再放送)


10.ちんぴら 林征二


番外.同人誌 層No.2 編集後記
   遠景 雀 復活 色川武大講談社文芸文庫


今年は夏以降、新雑誌『Me We』の準備に邁進していたものの、11月の僕の転居等で作業が中断し、関係者の皆様にはご迷惑をおかけしております(そのくせ昔から、同時に2つ以上のことに集中できない性格で、The WHOもブッカー.T&MG’Sもリンダ・ルイスもジュリー祭りも行かず終い… 来年はもっとよく働きよく遊びたいものです)
高円寺、下北沢と、若者の街での暮らしが長かった自分にとって、大泉学園の新居は、静かに集中して仕事に打ち込める、心機一転にはまたとない環境。
年明け早々から一気呵成に走りますので、どうか引き続きよろしくお願いいたします!


それでは皆様、よいお年を。

少女暴走伝説 Fair 下 (ヤンマガKCスペシャル)

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結婚できない男 DVD-BOX

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この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

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貸間あり [DVD]

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