ジョーのあした

bakuhatugoro2006-11-18



新宿花園神社の酉の市に行って、屋台で一杯ひっかけた後、帰りの電車の中吊りで「Number」の広告が目に止まる。
特集「越境秘話 彼らは何故、安住の地を捨てたのか」、興味を惹かれて帰りにコンビニで立ち読みしていくかと思いながらふと目を落とすと、小さく「辰吉丈一郎 不死鳥の行く先」! ほろ酔い気分が一遍に醒める。


記事はなかなかショッキングな内容。

インターハイバンタム級で優勝した高校生との2ラウンドのスパーリングだった。辰吉の繰り出すパンチはまるで当たらず、高校生にはことごとく当てられてしまう。辰吉は、うめくように言った。
「パンチが見えへん。目がついていかへん」
その後、辰吉は一度もスパーリングをしていない。


普通に考えれば充分予想できた、むしろ当たり前の状況なんだけれど、具体的に突きつけられるとやはりショックだ。


ただ、本当に不遜な言い方だけれど、凄く高級なドラマを目の当たりにさせてもらっているという感慨もある。
ずば抜けた才能と、ビッグマウスと、破滅型ギリギリの根性で派手に世間を沸かせた人間が、自分の明らかな衰えを知りながら、ただ黙々とストイックな日々をおくっている。
挫折も寂しさも、多かれ少なかれ誰の身の上にだって降りかかることだし、非現実的な執着をただ「男の生き様」として語るのは感傷的な贔屓の引き倒しかもしれないけれど、それが様になる、ドラマになる男というのが確かにいる。
技術論の無味乾燥さや、欲張りな感動屋に無理やりに付与されるドラマの安っぽさと無縁なものが、ここには確かにある。


非現実的な夢を仮託し、それが敗れる寂しさに付き合う価値があるものが、ここにはある。
同時代に、無心に眺め、見上げられるスターを持てたことを、無責任な1観客として幸福に思う。