帰省とスプリングスティーン

外の街路は
実態と幻想の間
死のワルツを奏で燃え上がっている
ここの詩人たちは
何も書きはしない
ただ距離を置いて眺めているだけ
でも夜が核心に近づくと
手を差し出しその瞬間をつかみ
正直な立場を主張しようとする
でも結局彼らは死ぬこともできず
傷つくだけ
今夜ジャングルランドで



”ジャングルランド”

また、一週間ほど帰省してまいりました。
糖尿病患ってる親父につきあって、何も無い田んぼのど真ん中や河っぺりを毎日ウォーキングしてきたんだけど、閑散とした枯野やヌートリアがうろうろする風景の中を風がゴウゴウ吹いているだけの冬の帰省時にくらべると、一面稲の緑が萌え、虫の音も騒がしかった今回は、いくらかのどかな気分になれた。
ただ、何の産業も無いまま年寄りだけが残り、子供によってかろうじて成り立っていた町内の交流も途絶え、ただ町や家々の歴史だけは古いため、それが滅びていくことへの寂寥感や無常観だけを抱えてしまっている、実を失った共同体の負の側面だけが住人の心を呪縛している様には、かける言葉も見つからず呆然とするしかなかった。



まっちゃんが日記に書いていたワーキングプアの現状もひしひしと感じましたよ。http://d.hatena.ne.jp/border68/20060723あれじゃ実際、現実的な収入の問題で若い人が結婚できないし、先に希望が無いからうつ病患者だらけになるってループもよくわかる。



いつも地元からこっちに戻って来る時には、リアリティにギャップがありすぎて不安定な気持ちになってしまう。だから、前回も『実録・共産党』の力を借りたように、ちょっとした儀式みたいなものが必要になるんだけど、ただ重いものは気がめいるし、軽いものは逆にそらぞらしい、なまなかなものではヒットしない。それで、今回は色川武大の同人誌時代の秀作『黄色い封筒』を持参していたんだが、これがまたうまくはまってくれて、何とか平常営業に戻れそうです。好悪を割り切れない現実、濃い愛憎を深く体感している人の存在には、本当に励まされる。



細かい感想を書きたいところなんだけど、まだそこまでパワーが出ず、とりあえず音楽でも聴いて癒されたい。
何かうまくフィットするものがないかと近所のユニオンを物色していたら、スプリングスティーンの75年ハマースミスオデオンのLIVE盤なんて物凄いブツが出てるじゃないか! 最近めったにロックの新譜コーナーに足を踏み入れなくなっていたから全然知らなかったよ。去年の暮れに出た『明日なき暴走』の30周年ボックスにDVDが収録されたが、やはりこういう時はリラックスして音だけに浸りたい。
一曲目は「サンダーロード」。このCD、ピアノの音がメチャクチャにいい。柔らかく透明なのに粒だっていて、体の奥に染みとおってくるよう。そしてハープにあのボーカル。郊外に逼塞したブルーカラーの青年が、脱出と旅立ちを宣言する歌。気がついたら、体に鳥肌が立っている。
50年代のロックンロールにポップス、フォーク、カントリー、ソウル、ジャズ、少年時代にラジオで夢中に聴いてきた音楽をすべてごった煮にして、彼特有の叙情的でイノセント、かつドラマティックなメロディと、心情を風景の中に描きこんだ言葉が重なる。黒人音楽のようには洗練されきらない、ドタドタと無骨で、ちょっとつんのめるように走り気味のリズム。グツグツと燃え滾るように過剰で熱い、骨太だけどナイーブな、アメリカの都市郊外のブルーカラーによるロックンロール。
最高のタイミングで聴けた幸運に感謝。