『TONE』02号

bakuhatugoro2005-06-25



27日月曜発売になる『TONE(トーン)』02号(ユニバーサル・コンボ) http://www.toneunderground.com/の戦争特集に、「不関旗一旒 海軍二等兵笠原和夫」という一文を書きました。

日本の戦争映画を観ていて、ずっと引っかかっていたことがある。
どの映画の主人公も、はじめから最後まで戦争に反対する平和主義者か、あるいは、最初から最後まで、勇敢な兵士であるか、いずれにせよ、状況に関係なく、個人の態度に一貫性がありすぎることにずっと違和を感じてきた。
そうした個人のあり方を、有無を言わさず押し流してしまうところにこそ、戦争の本当の恐ろしさがあったはずなんじゃないかと。
笠原和夫の戦争映画は、ある人間が戦争や軍隊に「染まっていく」過程が、「一人称で」語られている、本当に稀有な映画だ。
それは、彼が自ら海兵団に志願し、遠くない未来の死を覚悟した人間だったにも関わらず、敗戦を境にそうした一切を「無意味」なものにされ、同時にそのことによって生き延びてしまった、「二つの世界」にまたがって生きた人間だからこそできたことだろう。


日本人の多くは、戦前「天皇陛下万歳」と叫び、戦後は「民主主義万歳」を叫んだ。
彼らは「押し付けられ」「騙されていた」と言う。
それは本当に、誰かが誰かにただ押し付けたものだったのか。
「騙されていた」と自分の責任を放棄する人間は、今の自分は何にも「染まっていない」「騙されていない」と過信している人間じゃないか?
自ら進んで空気におもねり「天皇陛下万歳」を叫び、戦後は信じてもいない「民主主義」を振りかざせる人間。
そうした我々「戦後的人間」の典型として描かれたのが、あの金子信雄演じる山守の親分ではなかったろうか?


今回は、著作やセリフの引用を中心に、ストレートに笠原の思想に迫るという方向に絞った内容。
字数的にも駆け足の紹介編というところではありますが、かなり気合入れて書いたんで、是非ご購入、ご一読の程、よろしくお願いします。


この「戦争特集」、他にも中川大地さんhttp://d.hatena.ne.jp/qyl01021/による『夕凪の街 桜の国』『終戦のローレライ』の現在における受け入れられ方についての論考を皮切りに、骸吉君http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20050624による沖縄戦の記憶と情念をを子供向け番組に託し続けてきた『怪獣使いと少年』のシナリオライター上原正三氏へのインタビュー、荻原魚雷さんhttp://www.libro-koseisha.co.jp/mail_mag/mail_log.php?id=26による『戦艦大和ノ最期』の元青年将校吉田満と一兵卒として大陸に送られた『フーコン戦記』の古山高麗雄の間で交わされた戦争体験の掘り下げについての論考など、それぞれがそれぞれの立場を相対化しつつ相照らし、深めるような内容になっています。


また、これとは全く別枠ですが、奈落一騎君による、角川春樹の脳が痺れるようなロングインタビューも掲載。
(インタビュー映像)
http://broadband.biglobe.ne.jp/index_event.html?movieid=101261


俺自身久々に、発売が楽しみな仕事になりました。
乞う、ご期待!