恒例 今年個人的に印象深かった事ごと(オールジャンル)


1.『資金源強奪』監督深作欣二 脚本高田宏治
 『やくざの墓場 くちなしの花』監督深作欣二 脚本笠原和夫
前者は、製作当時の権利問題によって未ソフト化、後者は映画としての構成の破綻とテーマや資質が生のまま出てしまっていることを書き手自身が否定的に捉えている節もあってか、キャリアの中では多少マイナーな所に位置づけられているけれど、深作欣二笠原和夫それぞれの資質が最もストレートに出ていて、僕自身個人的にはいちばん好きな作品。


3.『妖しの民と生まれきて』(ちくま文庫) 笠原和夫
「その日はおそらく到来しないだろう。だからこそ、待ち望む価値があるのだ、と彼女は言うことだろう。もし現実に幸福な時が訪れたら、それは取るに足らぬ現実の一断片でしかないだろうから、と。」
「しかし、(中略)信じられぬものではあっても、愚かしい営みと判っていても、現実の果実を拾って歩いてゆかなければならない。でなければ、なにもかもが「無かったもの」になってしまうではないか。」
僕にとって、今年はまさに笠原和夫イヤーでした。


4.『福田恒存文芸論集』(講談社文芸文庫
 『黙示録論』(ちくま学芸文庫D・H・ロレンス著 福田恒存
上の笠原和夫と並び、誰もが、自らのエゴを正当化する偽善によって幸福へと煽られながら荒んでいく時代にあって、宿命として「不幸に耐える力と矜持」を示してくれる、本当に希少な作家。


6.『ラッパー慕情』藤原章
 『ゴーストワールド』テリー・ズウィゴフ
当事者の厳しさと愛を持って誠実に描かれた、ひきこもりとサブカル少女についての映画2本。
例えば今年「反ブッシュ」だの「ニート」だのを気楽に口にして徒党を組み、馴れ合ってたような種類の連中を、俺は決して信用しない。


8.『シガテラ古谷実
理不尽で暴力的な現実(人間の本質)と、自らの無力をひたすら描き続けてきた古谷が描く、不幸も幸福もないまぜな青春、恋愛物語(になるといいんだが...)。今の所、彼の作品でいちばん好き。


9.『極道辻説法』今東光
初版単行本全3巻をはじめて通読。トッポくて懐深い人間観。
声を大にして言う。せこい屈折と捨て鉢と自己保身の正当化が蔓延し荒んだ、現在日本(殊に文筆業界)に欠けているのは、今東光だ!


10.『あの娘をペットにしたくって』井筒和幸
mixiのコミュニティで、ライターの吉村智樹さんが絶賛されてるのを見て興味を持ち、古本を探索、購入した井筒の自伝的エッセイ集。神代映画の枯れたアンニュイに噛み付いたり、ゴジ脚本の『濡れた荒野を走れ』や『スカーフェイス』の男の疾走に興奮したり。若き井筒の気と才が横溢してます。文章も走ってる!テレビ出演は却ってマイナスかも!? 


別枠.『宇宙戦艦ヤマト イスカンダルへの追憶』
松本、西崎間の争いで長らくペンディングされていたけれど、ある意味最もヤマトらしい一作である「新たなる旅立ち」に光が当たる契機としても、製作者の深い愛情こもるこのゲームの発売は目出度い。
「同胞を見捨てて、何の栄光か! 何のガミラスか!!」


あと、笠原和夫、戦中派への興味からの流れで観た映画『少年時代』、それに『まんが道』の再読と、藤子A作品に熱くさせられることが多い一年でだった。


総論。いろいろ誤解されそうだけど、敢えて言ってみたい。
現在という時代を閉塞させているいちばんの不幸は、下心を廃して「今、が嫌い」と言い切る勇気を持った発言者が全くいないことだと思う。
否定であれ、本気で時代と切り結ぶ行為が、馴れ合いを正当化して恥じない空気の中、後ろ向きなことであると錯覚されている状況は、何とかしていかなきゃならんと思う。


「線引き屋」メンバーのベストテンは以下。
http://www.axcx.com/~sato/senbikiya/best/2004.html