『スクール・オブ・ロック』をDVD観賞。

bakuhatugoro2004-09-27



公開時、ロック版金八先生なんて形容もよく聞いたけど、むしろこれは「熱中時代」だ!と思った。


この映画に、「金八」的な、ジャーナリスティックな重さや泥臭さをスパイスにするような方向は皆無。
80年代の豊かな閉塞の前夜、カウンターカルチャーの熱も、挫折の痛手も過去になり、日曜の歩行者天国やデパートの屋上に家族連れがあふれ、24時間テレビに嘘寒さが漂わない一体感がギリギリ世の中に残っていたエアポケットのような時代に、かつて「太陽にほえろ!」や「傷だらけの天使」など70年代的な青春ドラマを企画、製作したスタッフと、和製ジェームス ディーンのようなナイーブなチンピラたちの挫折を演じてきた水谷豊によって送り出された、礼文島出身の純朴、生真面目でちょっとズレた若い小学校教師と子供たちの交流を描くあの優しいドラマと、『スクール・オブ・ロック』の印象は、俺の中で凄くかぶる。


そして、「ロック」とは銘打たれているけれど、本質的に全然アナーキーじゃない。
現状を変えたり、拒否し、動くきっかけを観衆に挑発もしなければ、現実の厳しさや各々の分を突きつけ、現状認識とそれを受け入れる勇気を示すわけでもない。
そうしたリアルなことは全部曖昧にして、ただ誰もが持つ衝動や優しさを、お互いを侵害し脅かさない限りで、注意深く肯定する、つまり本当になんてことない平和な話を、退屈させないように、精一杯の過剰なサービスで演じて見せる映画だった。
だから、エゴや、破壊衝動や、無軌道や、放埓といった、ロックがその熱と快楽の根っこに持つ、不安定で危険な要素は、注意深く取り除いてある。
笑いにしても、あの頃のドリフのルーチンギャグのように完結していて、罪がなく、優しい。
そういう意味で、例えば「やさぐれマイノリティの諦念とやけくそ」が根になっている「ブルースブラザーズ」なんかとは全く別の種類の、凄く安全で、実はお上品な映画なのだ。


本当は映画の中で、現実に対して何の認識が突きつけられるわけでも、態度決定がなされるわけでもないのに、なんとなく、問題が解決し、乗り越えられたかのように映画は終わる。
しかし、俺はこういう映画を観ていると、とても不安定な気持ちになる。
本当は、俺の問題は何も解決していないことを、どんなに映画の優しさに酔いしれたくても、体が知っているからだ。


下に引用したコミさんの文章じゃないけれど、俺は何かを「こうだ!」と考えると同時に、すぐにその逆も言えるってことを意識してしまう(これ、決して自慢してるわけじゃなく、多少強迫的にそういう体質で、本気でかなり困っている)。
人のエゴや酷薄に怒り、変えたいと願うあまりに、人間観が偏狭になったり恣意的になったりしている人を見ても、無責任な楽観に煽られ振り回されることに傷つき、過剰に諦念に閉じこもる人を見ても、その人の資質なりの納まりどころなのだと納得するが、ではどのあたりが自分のあるべき、あるいは自然なバランスなのか? という迷いが際限なくて、不安定さのために結果偏狭になってしまいがちな気もする。
そんな自分としては、できるならば誰もが、この映画のように、細心の優しさで気を配りあいながら、それが退屈でも窮屈でもないように精一杯努力し、振舞って生きていけたらと、本当に思う。
だから、「熱中時代」も「スクール オブ ロック」も、好きか嫌いかと言われれば、大好きな作品だ。
しかし(だからこそ)どこかで、「それだけでは何か嘘だろ!?」と、何か誤魔化しているようなざわざわと落ち着かない気持ちが起こってくる。


かといって、この映画がしょせん絵空事だといって、バカにしているわけではまったくない。
逆に、どんなに重い現実認識を突きつけてくる作品だろうが、それ自体はやはりどこか避難場所であるし、それを共有したところで、それだけで現実や外の世界に立ち向かう力が自分に備わるわけじゃない。
ただ、こうした作品の場合特に、優しい曖昧さに反応して、そこに埋没してしまいたい弱さと、それをとりあえず遠ざけておかなければ生きられないぞ、という本能の危険信号が、自分の中でせめぎあう。
それで、なんとも不安定な精神状態になってしまう。
要は、映画とうまく距離がとれなくなるのだ。
だから、むしろ自分の器を越えた世界の野蛮を描き、恐れや緊張を感じさせるような、背伸びや努力を必要とするものに向き合っている時だけ、安定を得ているようなところがある(あるいは、アメリカンニューシネマのように、唐突に、はっきりと挫折がつきつけられたりとか)。
かといって、これも結局同化できるわけではないから、結局振り回されてる気分は後々付きまとうんだが。


もう少し歳を得て、どんな場所であるにしろ、取り返しがつかないくらいに立場が定まって、よくも悪くもいろいろなことにもっと諦めがつけば、躊躇なく現実を遮断して、この頼りなく優しい世界を思いきり楽しみ、一方の心の故郷とすることもできるようになるのだろうか。
まだまだ渦中にいる自分には、正直想像がつかない。
何の自信も踏ん切りもつかないまま、ただ疲労と衰えが嵩んでくるという事態だけは、なんとかかわしたいところだが。


スクール・オブ・ロック スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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