禁じられた「正しさ」(その1、5)

なかなか続きを書きあぐねてる間に町山さんがUPされた、マイケル・ムーアの記者会見。http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20040706
思い切り心をつかまれるフレーズ連発!
(おそらく、魂共振させまくった町山さんの、意訳すれすれの名訳のおかげも大きいと想像)
これにはコメントせずばなるまい。

ムーア NYタイムズに限らずアメリカでは中道から左のマスコミと人間はみんなみんなヘナチョコで弱虫で根性なしで度胸のないフヌケ野郎ばっかりだ。みんな「イイ人ぶって」ケンカしようとしないんだ。だから過激なことを言う差別主義や右翼や厚顔無恥で図々しい保守や金持ちに押し切られちゃうんだよ。なかでも根性無しのフヌケ野郎は民主党だ。だってこないだの大統領選でゴアはブッシュに得票数で勝ってたんだよ。実際に勝ってたのにブッシュの投票工作に抵抗せずに勝ちをゆずっちまったんだ。こんなに情けない話はないよ。まあ民主党にもちゃんと戦ってる人もいるにはいるが、大多数はヘナチョコで、ブッシュがイラクと戦争すると言い出しても「ああ、戦争か、いやだなあ。でもテロと戦わなきゃいけないからなあ」と賛成に投票しちゃう。「愛国法」が提出されても「こわい法律だなあ」と思いながら「でも逆らうと愛国者じゃないって言われちゃうからなあ」って賛成に投票しちゃう。ヘドが出るぜ! もうアメリカのリベラルにはヘドが出る! こんなことじゃ何も解決しない、世の中変わらないよ! ヘナチョコで弱虫で根性無しだから数で勝ってるのに右翼に押しの強さで負けちゃうんだよ! リベラルはアメリカの多数派だよ。だってアメリカはリバティの国なんだから。アンケートを取れば大多数が「中絶の権利」や「銃規制」を支持してるんだから。でもリベラルはみんな受動的なんだ。自分で国をリードしようとしない。法案を提出するのはいつも右翼どもだ。リベラルにリーダシップがいないんだ。リベラルに必要なのは度胸なんだよ!


アイルランドの記者 もうひとつ質問ですが、「『華氏911』はドキュメンタリーではなくてプロパガンダだ」という批判が出てますが、どうお考えですか?


ムーア もちろん、これはドキュメンタリー映画ですよ。だから「事実」として提出している部分は100パーセント事実です。そのために事実チェックのプロも雇ったし。もし事実でないと言うなら裁判でも何でもすればいい。ただ、僕は「事実」を提出した後、その「事実」を「事実」と僕なりのやり方で結びつける。「事実」を基にして、僕の「見解」と僕の「理論」を提出する。この映画は「事実を基にした僕の見解」なんだ。「見解」だから僕は信じてるけど、実は間違ってるかもしれない。でもどんな「見解」でも言うのは自由だ。映画や小説に作者のメッセージを込めるのは当たり前だろ。それを観て同意するかどうかは観客の自由だ。ディベートすればいいんだ。


「リベラルに必要なのは度胸なんだよ!」
まさに至言!!


「みんな「イイ人ぶって」ケンカしようとしないんだ。だから過激なことを言う差別主義や右翼や厚顔無恥で図々しい保守や金持ちに押し切られちゃうんだよ。」
っていうのも、そのまま日本のネット状況みたいだ。


こうした現状にさしせまった不満がない人って言うのは、手にした既得権が脅かされない、零れ落ちないっていうことが最大の欲望で、つまり「イイ人」と評価される位置さえキープできれば何でもいいんだな。実は。
これだと、積極的な欲や目標のある、リスクをいとわない連中に押し切られがちなのも当然。
というより、衣食足りた国においては、実はこうした「リベラル」こそが「保守層」だったりする。


こうした浮動層のいいかげんさを批判せず、彼らの素朴な正義感やヒロイズムを煽って状況を動かそうとする、ムーアや町山さんの判断は太っ腹で合理的だと思う。
薬害エイズ運動の時の、小林よしのりを思い出す)
彼らのような人がいなければ、なしくずしの「水は低きにしか流れず」状態の中で起こる不幸を、食い止められないことは往々にしてある。


そして僕達にとって重要なのは、彼らの心身のタフさとバイタリティに最大限の敬意をはらうと同時に、なぜ彼らにそれができるのか、なぜ、彼らにしかそれができず、彼らが必要とされたのか、ということを、僕達が忘れないことだと思う。
彼らが作り出した流れや空気に便乗することで、自分が当たり前に抱えている、保身や差別を忘れ、押し流してしまわないことだと思う。


何かを心から信じたり、何かを(何にも増して最優先に)叶えたいと願わなければ、人間ここまでまっすぐに動けやしない。
そんな正義や目標や内的動機を、僕達は持っているだろうか?


ここを、決して忘れてはならないと思う。


自分たち自身が、信じる「正義」を持っているわけではないことを忘れてはならないと思う。
そして、天下り的に与えられるものではない、自分たちの「正しさ」を考えることが、ムーアや町山さんのような仕事は逆立ちしたってできない、自分の仕事だと思っている。


http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20040802
http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20040804
に続く