最近の諸々


●亀田興穀のタイトル戦。
はじめて面白く観た。これでようやく「始まった」って感じだ。
相変わらず上体は固いし、攻めの詰めは甘い。
かつての鬼塚を思わせるような、不器用なファイトスタイル。
でも、パワーと根性は確実にある。
初回のダウンからの立ち直りと、思い切り足に来ながらもとにかく倒れず持ちこたえた最終2ラウンドのガッツには心が動いた。
とにかく下品で長ったらしいTBSの前煽りと、不透明判定がミソつけたけど、追い詰められた場面で試された亀田の根性を見直したボクシングファンは多かったと思う(普通に負けて再戦って展開だったら、観客も納得し、興行側にとっても結局得だったと思うんだが...)。
何にしろ実際はようやくここからだし、今後が楽しみ。
雪辱したって負け続けたっていい。とにかく根性見せてくれ。



●『ゲド戦記
ツマラン...
というより、わざわざ感想書く以前のレベル。
演出はひたすら冗長、キャラもドラマも全くなし。
一緒に観に行った同居人の中学生の妹も寝てた...
テーマは100倍に薄めたエヴァンゲリオンってところ。
最近の駿作品のような、わけわからんなりの設定、世界観のディティー
への異常な懲り方もないし、走り回ったり空飛んだり、食い物がうまそうだったりって体感に訴えかける魅力もゼロ。
日々の具体的な対人関係なり、遊びなり勉強なりの中で具体的な問題に大忙しなはずの子供に、「死があるのに何故人は生きるのか」なんて抽象的な問題を、頭の中だけで解決させようたって無理だし不毛。
つうか、監督の頭の中が暇な中学生並みってことなんだろうな。



新井英樹『シュガー』『RIN』
      『キーチ』
望月峯太郎『万祝』
久しぶりに最近!?のマンガをイッキ読み。
新井英樹の2作は、相変わらず日常ディティールの泥臭い描きこみや、人物描写のステレオタイプでない「クセ」の付け方は健在。ただ、特に『シュガー』は「ボクシングマンガ=人生背負ったハングリーヒーローもの」という『あしたのジョー』的な公式をひっくり返す、現代のカリスマ創造への野心は買うものの、いかんせん主役のリンに全く魅力が無い。込められた構図をやたら主人公がセリフで語っちゃうのも煩いし、薄っぺらく感じる。
新井が念頭に置くアリにしろ、逆境をひっくり返す根性があってこそのはったりの輝きであり、勝ちへの執着の凄みと、それを「チャーミング」とさえ感じさせてしまう天然のキャラを併せ持ってこその天才。作者の中の(やや単純すぎて無理のある)構図に自縄自縛気味な印象を受けた。
『キーチ』の方は、『ワールド〜』の子供版焼き直しの趣。
こちらは、エキセントリックな内圧を研ぎ澄まして一転突破って方向は、自意識過剰の裏返しが匂ってちょっと食傷。
なんというか、もっと寡黙だったり緩かったりバカだったり、(そして、だからこそ時に、意識せざる無言の鬱屈を秘めていたりもする)、静かな庶民の感覚をベースにした作品が無性に読みたい(俺の好きなちばあきおの諸作のような。ああ、『チャンプ』の続きが読みたい...)。
いくらベタであっても、王道を説得力を持って描く底力こそが、今最も求められるとも改めて痛感。



『万祝』は、『ドラゴンヘッド』の陰々滅めつとした停滞から一転、うじうじと面倒くさい内面のドラマに拘泥することなく(そうしたテーマ性は「おじいちゃんの手紙」に託したナレーションで適時補足しながら)海洋冒険活劇って方向にストイックに集中。大時代的な舞台設定と、読者の日常を巧みに繋げる、ファッションやメカのディティールの細かさと物語の飛躍の塩梅は相変わらずさすが。
ただ、これは『ドラゴンヘッド』以来ずっとそうなんだが、彼の最大の魅力であるアドリブ的な脱線を禁欲してしまうと、どうにもマンガとしての色気が薄い。特に海に出てからの展開は決してつまらなくはないんだけど、やはり「凄く面白い!」とまでは思えないのが残念。
先日一年ぶりに北海道に泳ぎに行った時、漁師の監視の目を盗んで素もぐりでウニを密猟した時の方がずっと興奮した(笑) あちこち棘が刺さって傷だらけになってしまったけど...



●最近一番面白かったのは、BSでやってた渥美清の特番。
昭和4年生まれ。やはり戦中、戦後の価値観の激変と絶対的困窮を潜り抜けた人の屈託には深みがある。
『拝啓 天皇陛下様』で渥美清が演じた役って、演出のトーンを変えれば、例えば戦地で他の者が尻込みする捕虜の首をはねる役を買って出て、復員してからはやくざになった(『仁義なき戦い』第一作の梅宮辰夫のモデルになった)悪魔のキューピーみたいなもの。
ある意味彼や勝新兵隊やくざ以上に「特異なキャラ」という形で括弧に括られていない分生々しい、かつての(現在は忘れられた)ある種の庶民の典型というイメージ。
「おかしな男」でモダニズム好きの小林信彦が批判的に流しちゃった部分の渥美清を、もっと深く知りたい。

RIN(1) (ヤンマガKCスペシャル)

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万祝<まいわい>(6) (ヤンマガKCスペシャル)

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拝啓天皇陛下様 [DVD]

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