男たちの旅路

bakuhatugoro2005-10-09



NHKアーカイブスでやってた『男たちの旅路』の第三部第一話「シルバーシート」を観た(確か何年か前「懐かしのドラマ館」って枠でやってた時に観て以来2度目)。
殿山泰司笠智衆加藤嘉藤原釜足といった錚錚たる名優連演じる身寄りのない老人達が、都電をジャックして今では衰え役立たずになって世に省みられなくなった自分達のやるせなさを訴えるという内容。
彼らを説得する元特攻隊員のガードマン鶴田浩二を含め、それぞれに力の入った芝居で楽しめたけれど、ドラマ自体は正直山田太一の限界が分かりやすく出ちゃってる内容だと思う。


こうした内心の意識の仕方や自己主張というのは、もっと権利意識を強く持った後の世代の発想と行動であって、戦前育ちの老人たちは、ただそれを黙って恥じ入っていたり、あるいは穏やかに受け入れていて、それが我々傍目にはせつなかったりするというのが実際なんじゃないか。
「何もしてない人間は、物を言う権利がないというのか」なんて学生みたいな主張を老人にさせるというのは、わかりやすい寓話仕立てにしてもリアリティが無さ過ぎて、却ってドラマの焦点がぼやけちゃってたと思う。それは(作り手である)あなたの世の中への不満や感傷を彼らに投影してるだけじゃないかと。


この回は、当時芸術祭の大賞を受賞していて、こうしたインテリの公式見解的な「社会問題」のアングルでテーマ設定した方が、センセーショナルに大向こうウケしやすいってところは今も昔も変わらないんだなと思ったけれど、こうした「問題」「解決」って優等生的なアングルじゃなく、ある時代や状況の中で培われた生理と世界観とを刻印として背負って生きていく人間を静かに見つめたようなドラマの方が、本当は深く心に響くし古びないんだよね(ただ、そういうドラマって言葉で「説明」しないから、テレビだとどうしても流れていってしまって、逆に大衆には届かなかったりもするんだけれど。『祭ばやしが聞こえる』とか...)。


ただ、山田太一には、リベラルなインテリがまじめに現実に向き合って外から掘り下げてるってふうな野暮ったさを感じつつも、だからこそ特攻隊世代や福田恒存に興味が行ったりと愚直な誠実さも徹底している分、最終的に悪い気はしない。真面目さと善意ゆえに、冷静に現実に向き合おうとするほど、「どうしようもない」部分をことさら露に意識してしまって、傍観者的に絶句しているような気配が、彼の作品の多くには漂っている。

男たちの旅路 第3部-全集- [DVD]

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