en-taxi 11月号

bakuhatugoro2005-10-02



http://www.fusosha.co.jp/en-taxi/
特集は「70年代東映」。


 そして何と!笠原和夫『実録 共産党』『日本暗殺秘録』収録の文庫本が付録に付いてます!!
これらは「映画芸術」の笠原・深作追悼号と、『笠原和夫 人とシナリオ』に既に収録されているけれど、とにかくこうして多くの人の目に触れる機会を持つことは嬉しい。この文庫本だけでも860円は絶対安い(というか、この号確実に売切れになるから、とにかく書店に急ぐべき)!


酒井信の解説も読み応えあり。

 笠原和夫は「大衆」という言葉を「バラバラの人間のありよう」と定義している。昭和から平成に時代が変わり、バブルが弾け、冷戦が崩壊した今日、主義、思想を持った「連帯」は解体し、NGOのように具体的な目的を持った組織に取って代わっている。そして「バラバラの人間のありよう」は個性として肯定され、「孤独」は個性のネガとしてのみ理解されている。
 しかし「孤独」とは「のがれがたく連帯の中にはらまれている」ものに他ならないのではないか。そして私たちは、このような「のがれがたく連帯の中にはらまれている孤独」と向き合うことなしには、現実の世界の上に「一つの秩序が存在することを信ずること」はできないのではないか。
 「実録・共産党」と「日本暗殺秘録」は、近代日本という、今日まで続く時代の足許から、こう問いかけているのである。


 現在、一見笠原の「古さ」と受け取られがちだけれど、実は曖昧に誤魔化され続けているに過ぎない、「バラバラ」でありながら「無関係ではありえない」、人間の「社会」のありようと「責任」を直視した、笠原作品の孕む現在への批判力の肝を捉える良い文章だと思いました。


 伝え聞くところによると、同誌は最初『昭和の天皇』の収録を希望していたらしいのだけれど、『あヽ決戦航空隊』『大日本帝国』などであれだけ遠慮会釈なく天皇の戦争責任を含む近代史のタブーに切り込み、描き続けてきた脚本家としては、宮内庁の全面協力の必要といった制約、そして自身の昭和天皇に対する骨絡みの愛憎もあって、中途半端な未定稿として表に出ることを望まなかったものであり、はじめて笠原脚本に触れる読者も多いだろう今回のような場合、この2作の選択は結果的に正解だと思う。


 ちなみに俺がもっとも読みたい笠原未発表シナリオは『仰げば尊し』。彼が原作者から直に映画化権を買い、自ら監督することを望んだ一作。
 手がけてきたやくざ映画の傑作群を否定し(そこには仁侠映画のヒロイズムの空々しさへの否定と、実録路線の「ミもフタもない」暴きと投げ出しの行き着く不毛への否定という二重の意味がある)、「戦前」を正面から描くことを切望し続けていた笠原の一方の原質を示すような、例えば篠田正浩山田太一の『少年時代』に連なるような作品を勝手に想像しているのだが...


http://d.hatena.ne.jp/bakuhatugoro/20060604に続く。