駄菓子を食わなかった子供たち

手塚先生、僕らの世代だと、まだ週刊マンガ誌を毎週読むような財力は無かった小学生の頃、初めて買ったマンガが『ブラックジャック』というヤツは多かった。『サンボーグ009』『ドカベン』あたりと並んで。藤子不二雄もコロコロ創刊とアニメ化による『ドラえもんリバイバルまでは、学年誌に載ってる保護者公認の日常風景みたいなもので、子供が積極的に好むという感じではなかった。アニメ化や特撮ヒーロー物の影響で石森章太郎永井豪の方がずっと人気が熱かった。あとは梶原一騎原作のやさぐれ&スポ根マンガ。自分は初めてハマったマンガは『あしたのジョー』。
その後はヤマトからの流れで松本零士ファンに。
中高時代も手塚治虫は、大好きなのはリアルタイムの洋楽だけど、一度ビートルズくらいちょっと聴いてみるか…くらいな位置が一般的な感覚だったと思う。マンガもまだ若くてしっかり大衆文化だった。そして、子供が自発的に夢中になるのはたいてい駄菓子のようにいかがわしいナマモノなんですね。
だから、僕が手塚先生に本当に強い関心を持ったのも、『まんが道』に登場するまんが少年達の神様としてだった。

そういうわけで、親から与えられたジブリやディズニーだけで育ってしまう子供とか、はっぴいえんどつげ義春の本ばかり権威となって出版され続ける様子というのはどうにも学校的で、皮膚感覚で苛立ってしまう。それじゃあ、心の中に雑然とした迷路や自由は育たんよなあと。