2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

無理をしない落ち着いた生き方への願望

これ以上あまり欲しいものも無いし、過ぎた便利や進歩発展に幸福を感じられなくなると、行け行けどんどんの世の中では無くなるかわりに、いろんなものを互いにリサイクルしたりシェアしたりしながら、多少手間をかけて小さく緩く生きる時代になるのでは無い…

武田泰淳『未来の淫女』再読

武田泰淳『未来の淫女』『続・未来の淫女』を再読した。初読の頃よりずっと面白く感じる。もともと泰淳さんよりも先に百合子さんの著書に夢中になっていたから、写柔らかく自在で物の見方も至極クールな彼女の文章に比べ、泰淳さんの(特に初期作品の)思想的…

相性

空気を読んだり顔色を見たりする能力が欠けていて、嫌われたり損をしたりしがちな人を可哀想に思うけれど、それをわかっていても何が出来るわけでなく、ひたすら彼等の直線的な言動に耐え続けるしかないのもしんどいものだ。人はどうしようもなく不揃いで、…

或る情弱中年の述懐

ずっと木造アパートでの一人暮らし、基本自宅での座業なのに加えて、この十年あまりは体調を崩したり、親の介護や没後処理であっという間に過ぎてしまっていたから、AIの進化の影響がどうだとか、世の大多数から紙の本を読む習慣が無くなるかもと俄かに騒が…

蒸し暑い夜の夢日記

美学校だか、予備校のような教室での登校初日。いきなり講師に山崎努が登場して驚く。特にテーマにこだわる様子なく、場の空気への反射神経で話を進められている。学生たちは、学級崩壊した児童のようにてんでバラバラ勝手なことをやったり話したりしている…

『らんまん』と『赤毛のアン』

今朝の『らんまん』。自分に引きつけた解釈で、作り手が込めたものとは違っているかもしれないけれど、宇崎さんのジョン万次郎の自分に出来たかもしれないことを果たせなかった後悔というのは、見方を変えれば強く自由に夢見た者が背負う桎梏とも言えるので…

面倒がらずにケジメは守りたい

「昨夜、突然、花子の知り合いのM氏、大学生を連れて美術全集を借りに来る。さっさと運びはじめる。花子もM氏も当然のような顔をしている。私は怒る。花子「うちの本でしょう。貸してあげたっていいと思った」。私「うちの本ではない。おとうさんの本だ。お…

値段の付かないかけがえない体験を

「スタンドに車をおいて、私は歩いて買物をする。八百屋にいると、遅々として動かぬ車の列から男が三人降りてきて「めんどくさい。ここでぶどう買ったって同じだ。五箱くれ」といっている。「ここで買って東京へ帰ろう。いつになったら勝沼まで行けるか判り…

色川武大「一歩後退、ニ歩前進ーーの章」より

「ストリップというやつがあるね。はじめは日本では「額縁ショー」とかいって、裸の女の子が有名な絵画に似せたポーズで、三分間立っているだけだった。それでも人々はびっくりし昂奮して大入り満員だったね。でも、同じことをやっているとすぐにあきるから…

強引で爪先立ったポジティブシンキング

夢と金を語る本にも、ガン闘病記にも、昨今のベストセラーに共に感じるのは、爪先立ったポジティブシンキングの強引さ。でも、張り詰めたものは半面脆いというのも、金や成功と縁の無い、凡愚な自分の半生での実感。とはいえ、張り詰める必要のあるときが、…

武田百合子×深沢七郎「武田泰淳、その存在」より

武田「それは病気とか脳血栓とかじゃなくて、武田の本質的なものという気がする。山から朝いつも早く帰ってくるの。朝五時ごろ私は叩き起こされて、運転して東京まで帰ってくるのね。ずっと山を下りてくると、富士山に登る登山道があるの。そこのところにナ…

杉並区の選挙結果を嬉しくない1住民の弁

革新系候補や女性候補が大勢当選して地元は浮かれ気分だけれど、正直、自分はあまり嬉しくない。地元民が望まない、街の在り方にそぐわない再開発が強引に進められたり、理由も定かで無いうちに児童館が減らされたりといったことにこれで歯止めがかかるなら…

『らんまん』やっぱり好きだな

『らんまん』やっぱり好きだな。人々の遠慮や迷いやが、否定的に描かれないのがいい。登場人物たちを主義主張の道具にすることのない、それぞれの条件や事情への作り手の謙虚で優しい姿勢が嬉しい。演出にも脚本にも演技にも、オーソドックスな落ち着きがあ…

癒着を破壊し合理を取ることは本当に正しいのか

維新が躍進したということは、多くの人が経済を合理的に優先する方向を望んでいるということ。そこに対して、戦争や宗教の脅威を煽ることだけで対抗しようとしているのが、安易に過ぎだのだと思う。統一教会と自民党の癒着が事実だとしても、宗教に限らない…

わからないことよりも、わかっているという思い込みがずっと危険だ

ウォーキズムとかポリコレの暴走は本当に由々しいことだと思っているが、だからといって「ウォークはいけない」という啓蒙に人々を従わせようとするだけでは、同じことの繰り返しではないか。そもそも思想体系というのは、どんなものであれ、それで一挙に世…

『らんまん』本当に好きになってきた

昨日見損ねていた『らんまん』の録画を今見ている。このドラマ、なんだか本当に好きになってきている。自分は、主人公のように育ちの良いお坊ちゃんだったわけではないけれど、なんだかとても懐かしく、ストレートに感情移入して見てしまっている。こんなこ…

フォーム調整中の日記

自分は良くも悪くも血が熱くて、対人関係の距離が近い方だと思う。だから、付き合いが濃くなるのも早いけれど、摩擦も激しくなりがちだ。気を遣って遠慮したりサービスしたりしていても、親密になるとどうしても地金がのぞくし、逆にすれちがったままでも我…

アピールを急がない静かな地声

このところ、7、80年代頃の古い文芸誌に載っている作家のエッセイを、暇暇に拾い読みしている。物語や起伏の無い身辺雑記や随想風のものが多く、当時作家達の年齢が全体に高齢だったこともあって、戦後間もない頃に比べて今の文学は、どうしてこう退屈なのだ…

物事に完全な解決も解答も無いけれど、共通の原っぱはいつだって持てる

福田恆存の言う「横丁の蕎麦屋を守る」というのは、ある特定の場所や伝統を守るということだけでは無いと、自分は応用問題のように考えている。そうでなければ、何代も同じ家業を受け継ぐといったことが難しい、対欧米という外的条件に迫られて急激に変わら…

町田康「深沢七郎『笛吹川』(講談社文芸文庫)解説」より

「どうしようもないとき、どうなるか。という前に、どうしようもないこととはなにか、それは、じりじりするような出郷の感覚であり、出水であり、死であり、時間の流れである。そしてそれらは、本来、言葉と無関係、無言である。しかし、私たちは言葉を発し…

福田和也『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』

「ただ保護してもらおうという意識のままでは、保護されなくなった時が悲惨だ。一方的に隷従させられ、収奪されていくばかりである。(…)江藤淳は、戦後の日本人は治者の倫理を失ったと、嘆いていた。いかにすれば国が存続し、栄えるかを考える人間が日に日に…

『らんまん』と『野菊の如き君なりき』

宇崎竜童さんが出演するらしいとの情報を聞いて、久し振りに朝ドラを見ている。今週から主人公の青年期の話になって、だんだん好きになってきた。女人禁制の酒づくりに興味のある姉役の子が、『野菊の如き君なりき』で民さんを演じていた素人の女の子の印象…

「戦争を無くすには、自分が人よりよくなろうと思わないこと。しかしそれが出来るだろうか」

「皆が、戦争がいやだって思ってるだけじゃ、きっと戦争はなくならないんだな」「どうして」「俺はえらそうなことがいえる男じゃないけれどもね、その前提でいえば、戦争をなくすには、もうひとつの決心が要る。それは、自分が他人よりよくなろうと思わない…

色川武大『向こう横丁のたばこ屋の』より

「売り声の人たちや、タバコ屋の看板娘を、街の情緒としてなつかしがるのは、その人たちの辛さを知らぬ者のセリフである。子供の頃は、くず屋のお爺さんがなんとなく恐ろしかった。道ばたで遊んでいると、籠を背負った老人が、「くずーイー」などと声を発し…

武田泰淳『雑種』より火野葦平についての記述

「火野葦平の実物を眼にしたのは、はじめてだった。肩幅のひろい頑丈そうな男が有名な兵隊作家であることは、すぐ察せられた。火野氏が厚着をしているようにみえたのは、ほかの文学者にくらべて、一段と体格がよかったせいである。彼は質素な背広姿だった。…

差別の見える人生の豊穣さについて

「陽が照りわたる表を歩いてきて、青木さんのところの板戸を押して入ると真暗で、眼の中から緑や赤の燐光の粉が湧いた。足元から土間が長細く奥まで通っていて、土間の両側に敷居を高くして障子をはめた(六畳ぐらいの)部屋が五つずつ並んでいた。眼が慣れて…

近藤信行「武田百合子さん」(「新潮」93年8月号)

先日、反古類を整理していたら、武田泰淳の「目まいのする散歩」その他の原稿が出てきた。題名と署名は泰淳さん。本文のほうは百合子夫人の手によって書きすすめられている。ところどころに作者の書きこみや推敲があったり、百合子さんの字で修正がくわえら…

夢に出てくる旧友の話

高校卒業以来、いや、高校の途中からまともに話すことも無くなってそれっきりなのに、ずっと夢に常連のように登場してくる幼なじみがいる。彼は小学3年の時にやってきた転校生。お母さんは母子家庭に育った苦労人で、外に働きに出ていたのだが、教員の旦那さ…

島の祖父と旧友の夢

半分は加齢のため、半分は職業病でもともと眠りが浅いのに加えて、花粉症の鼻づまりで、短く断続的にしか眠らない日が続く。昨夜は、瀬戸内の小島にある父の生家に帰省中(自分が生まれ育ったのは母の生家だから二重の帰省だ)、何故か大学時代の北朝鮮系の在…

村上龍についての覚え書き(Twitterでの会話から)

「村上龍、新作で、自分はビリー・ホリデイは聴くけど、エラ・フィッツジェラルドやサラ・ボーンやアレサ・フランクリンは聴かないと書いているのが印象的でした。彼女たちの音は周りに仲間が沢山いる感じがするけど、ビリー・ホリデイは独りだからと。こう…